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48 ビビアンside④
「今、なんとおっしゃいました?」
お父様の執務室。
重厚な机と精緻な彫りが施された椅子。硝子戸の本棚には専門書がずらりと並んでいる。その一角にテーブルと椅子が配置されている。
お父様に呼ばれてきてみればお母様の姿もあった。物々しい雰囲気に予感めいたものを感じ取り、心を浮き立たせたのも束の間。予想だにしなかった話がわたくしの耳に飛び込んできた。
「ロジアム侯爵家との縁談の話が来ている。相手は三男のトーマス・ロジアム。騎士団所属の将来有望な騎士だそうだ。とても良い縁談だと思うがどうだ?」
「三男で騎士? それが良い縁談なのですか?」
縁談だと聞いて、てっきりレイニー殿下とのお話だと思ったのに。蓋を開けてみれば、格下の侯爵家。
「ああ、いいと思うがな。ロジアム侯爵家は歴史も古い名門の裕福な貴族。侯爵も大臣を務めるほどの名士。家柄的には何の問題もない。わしとしてはこの縁談を進めていきたいのだが、どうだろうか」
何の問題もない? 大ありだわ。
わたくしが血の滲むような努力をして身につけた様々な教養は、侯爵家の三男に嫁ぐためのものではない。嫡男ならいざ知らず、なんで三男なんかと。
わたくしの努力が水の泡になるのかと思うと眩暈がしてくる。
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