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「わたくしは嫌です」
キッパリと言い切った。
困惑したようにわたくしを見つめたお父様の顔がにわかに曇る。お母様も目を開いて驚いている。二人共、快く了承すると思っていたのかもしれない。
「なぜだね。何が気に入らないのだね」
「なぜ? 侯爵家の三男なんて結婚する価値がありませんわ。わたくしは公爵家の娘。もっと相応しい縁談があると思うのですわ」
「相応しい、か。侯爵家の三男では釣り合わないと思っているのかね」
「当然ですわ」
ここはキチンと主張しておかないと丸め込まれてはたまらない。
わたくしは自信たっぷりに言った後、紅茶に口をつけた。
カップの取り方、飲み方、ソーサーに戻す仕草さえも完璧に計算されつくした優雅なもの。
たった一つの所作だってどれほどの努力で身につけたものなのか、お父様に見せてあげたいくらいだわ。
「しかしな。トーマス殿は騎士団の中でも出世頭、将来有望だと聞いている。第一騎士団長のユージーン殿下の親友であり片腕。殿下が将来、騎士団の総帥の座についた際の幹部候補でもある。それだけでも十分に価値はあると思うのだがな」
「わたくしにはありませんわ」
「ふう……」
お父様は頑なに拒むわたくしに困り果てたように息を吐いた。
こんなに抵抗されるとは思わなかったのかもしれない。
でも、わたくしにだって夢があるわ。
愛する方がいるのに別の男に嫁げなどと言われて、はいそうですかと頷けるものではない。それが貴族の結婚だと言われても。
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