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「そうそう、今日のお茶会はね、有名な楽団を呼んでの演奏会だったのよ。それでね」
シェードで日差しを程よく遮ったお母様お気に入りのサンルーム。
お母様が楽しそうに話をしているけれどわたくしの耳には入ってこない。
昨日の今日。
気まずい思いをして部屋を去ったというのに、お母様は学園から帰ってくるなり、わたくしをお茶に誘った。
正直会いたくなかったけれど、断って事態が悪化するのも忍びない。仕方なくつき合うことにした。
いつもはお茶会の話と聞けば、将来の参考になることはないかと真剣に聞くのだけれど、今日はそんな気力もない。不機嫌な顔もできないので、適当に相槌を打って話を聞き流していた。
「そういえば、今日のお茶会で騎士団の話が出てね」
騎士団。
わたくしの頬がピクリと引きつった。
「ユージーン殿下も優秀な方だけれど、ロジアム侯爵家のトーマスさんも文武両道でとても優秀な騎士だそうよ。上司や部下からの信頼も厚くて慕われているんですって、その上に眉目秀麗な美丈夫なのだそうよ」
「……」
すでにレイニー殿下から鞍替えしたのか、お母様は前のめりになって話し出す。なんとか、縁談相手に興味を持ってもらおうと必死な様子に心が冷えていく。
お母様の中ではレイニー殿下は影も形もないのでしょうね。すっかり忘れ去られているわ。
わたくしは冷めた目でお母様を見てカップを手に取った。
「美丈夫ですか。わたくしは見たこともないので、何とも言えませんわ」
「そうよね。実はね、絵姿をもらってきたのよ。ちょっと見てみない?」
どこに隠していたのか、豪華な額装の肖像画がスッと目の前に差し出された。用意周到だわ。
昨日の今日よ。もしかして、すでに手元にあったのかしら。
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