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「三男は三男。嫡男ではないでしょう。それに本人に言ってるわけではないのですから、ここだけの話ということで許して頂けないでしょうか?」
「それは、そうだけれど……」
軟化するどころか硬化するわたくしの態度に、お母様は困り果てた様子で口をつぐんだ。最近お気に入りのピスタチオのマカロンをつまむ。
「トーマスさんのどこが気に入らないのか、教えてちょうだい?」
「そういう問題ではないかと思うのですが、お母様」
どこかで折れると期待をしているのかもしれないけれど。根本的に噛み合わない話題を持ってきてもらっても、交わるところは永遠にやってこない。
「レイニー殿下でなければダメなの?」
「……わたくしはずっと夢を見ていましたの。わたくしの初恋だったのですわ。お母様」
「初恋?」
娘の恋バナを聞かされるとは思っていなかったお母様は何度も目を瞬かせた。
「でも、初恋は実らないと言いますものね。わたくしだって、お父様とお母様を困らせたいわけではないのです。公爵家に生まれたからには役目を全うしたいと思っていますわ」
「ビビアン」
「ただ、心を整理する時間が必要なのです。ですから、もうしばらく時間が欲しいのですわ」
わたくしは了承したくないのだから、どこまで行っても平行線。話を続けても不毛なだけ。ここは聞き分けのよい娘を演じるわ。
「わかったわ。でも、あまり時間はあげられないわ。あちらも待っていらっしゃるのよ」
「わかっております。では、部屋に戻りますわね」
わたくしは礼をとるとサンルームを退出した。
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