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「はあ、はあ」
息つく間もなく激情に身を委ねた力任せの行為に、呼吸が乱れて肩で息をする。
紙を破いたくらいでは怒りは収まらない。なんとも言えない気持ちはどこに持っていきようもない。
呼吸が正常に戻った頃、扉を叩く音と共に扉が開いた。
「お嬢様、入りますよ。お召替えのお手伝いを……」
部屋に入ってきたメイドの足が止まって、声も止んだ。視線はわたくしを通り越して先の方に注がれている。
「あの、お嬢様。どうなさったのですか?」
滅多なことでは驚かないメイドのエマ。
紺色のメイド服に後ろに纏めた茶色の髪。そして、茶色の瞳が大きく見開かれて、わたくしの背後の惨状に困惑している。
机の上では教科書類が鞄から飛び出ているし、破いた紙があちらこちらに散らばってゴミが散乱しているかのようだった。
いつもキッチリと整理整頓されて埃一つないわたくしの部屋。
メイド達が毎日磨き上げてくれる清潔な部屋の机の周りは、見る影もないほど散らかってひどい有様。目を覆いたくなるほど。
「お嬢様」
その悲惨な状況を目の当たりにして、何があったのかと、気まずくも気の毒そうにわたくしを見つめるエマ。
「い、いえ。これは……」
冷静になってみると常軌を逸している行為。バカげたことをしてしまったわ。
あたふたするも、わたくしがやりましたなどとは口が裂けても言えない。
「わたくしでは、ないのよ……」
そうよ。わたくしではない。いつもの自分だったら絶対にこんなことはしないわ。あれはわたくしではなかったのよ。わたくしに乗り移った誰かだったのよ。たぶん。
そうでも思わないと惨めすぎる。
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