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「それでは、誰が……」
「それは……」
往生際が悪いとわかっていても、犯人は自分だとは言えない。
わたくしだって信じられないのだもの。
負け犬のごとく逃げ出すしかなかった末の結果がこれって、あまりにも恥ずかしすぎる。
「もしや、他の誰かの仕業とか? いやがらせをされているとかではありませんか?」
白状しないわたくしに何かを感じ取ったのか、エマがあらぬことを聞いてきた。
いやがらせ。学園ではほとんど聞いたことはないけれど。わたくしもそんな目にあったことはない。
そういえば、巷ではそんな感じの小説が流行っていたような気がするわ。ヒロインの恋の邪魔をして苛め抜く悪役令嬢が登場する小説。
最後は悪役令嬢の悪事がばれて断罪され、ヒロインは恋人とハッピーエンドを迎える。勧善懲悪。スカッとする話ね。
今の私にぴったりじゃない。
そうよ。わたくしとレイニー殿下の結婚を邪魔するフローラ。さながらヒロインと悪役令嬢だわ。
もしも、わたくしが癇癪を起こしたと告げ口されたら両親になんと思われるか。淑女の見本とまで言われているわたくしよ。失態なんて見せられないわ。結婚の件があるから、下手な醜態は見せられない。
仕方がないわね。
この際だから、口止めついでにエマの誤解を利用させてもらうわね。
「ええ、実は……」
わたくしは物憂げな表情を作って話し出した。
いいわよね。ここだけの話だもの。何の実害もないわ。わたくしは軽い気持ちでエマの誤解に乗った。
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