3365人が本棚に入れています
本棚に追加
♢♢♢♢♢♢
「ふふっ」
わたくしは笑みをたたえて左の薬指に指輪をはめる。深い色合いが素敵なアメジストの指輪。
コンコンと音がして許可をするとエマがわたくしの部屋に入ってきた。
「お嬢様、傷の手当てをいたしますよ」
すでに手には薬箱を抱えている。わたくしは頷くと椅子に座ってスツールに足を置いた。
ドレスをめくると白い包帯が目に入る。膝に巻いたそれをエマが丁寧に解いていき、ガーゼをとると傷口が見えた。
学園で転んでしまい膝に怪我を負ってしまった。
傷自体は大したことはなかったのだけれど、出血したことがショックだったのか、エマが必要以上にかいがいしく怪我の手当てをしてくれている。
「傷跡が残らないといいのですが……」
消毒をしながら、心配そうに傷口を見ている。
「大丈夫よ。日が経てば傷も治って元通りになるわ」
お医者様からはすり傷と切り傷が少しあるだけで、すぐに良くなると言われている。エマが心配性なだけ。
「それなら、良いのですが。お嬢様、ブルーバーグ侯爵令嬢に注意なさらないのですか?」
「でもね、彼女がやったとは言えないのよ。ただ、通り過ぎる時に躓いただけですもの。転んだわたくしが悪いのよ」
「そうでしょうか? それだけではないでしょう? 教科書だって、被害を受けているではないですか」
「それも、彼女だと証明できるものはないの。後ろ姿を見ただけですもの。それだけで犯人だと決めつけるわけにはいかないわ」
最初のコメントを投稿しよう!