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「そうかもしれませんが……」
エマは憤りを露わにしながらも手際よく包帯を巻いていった。
あの日、鞄から教科書を取り出そうとしたら、バラバラに引き裂かれた教科書が出てきたのだとごまかした。
怪我だって、誰かとすれ違いざまに、わざと足を引っかけられたわけではなく、一人で歩いているときに、運悪く石に躓いて転んだだけ。
それをフローラのせいにしただけ。
いいえ、フローラがやったと断言したわけではなく、彼女がいたわ、見たわと匂せただけ。嘘を真実と思わせるための匂わせ。いざとなったら言い逃れができるものね。
傷の手当てが済むとエマがわたくしの指に目を止める。
「素敵な指輪ですね」
アメジストの深い紫に目を奪われて買ってきたもの。
宝石は小ぶりなのが少し不満なのだけれど、わたくしのお小遣いで買えるのはこれが限界だった。
でも美しい色合いにはとても満足しているわ。だって、レイ様の瞳と同じ色なんですもの。
「ええ、これはね、レイ様からの贈り物なのよ。今日、頂いたの」
レイ様を思い浮かべると自然と顔が緩み幸せな気持ちになる。例え嘘だとしても。指輪をはめた指を掲げて光の反射で輝くアメジストにうっとりする。
レイ様からもらったのだと自分に強く言い聞かせる。
レイ様。
レイニー殿下と呼ぶよりずっと親密さを演出できるものね。
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