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「まあ、そうだったのですね」
エマは大きく目を見開いて喜色の色を浮かべて両手を頬に当てている。そして、アメジストの指輪をしげしげと見つめ、ほぅと感嘆の息を漏らした。
「レイ様はとても優しくてわたくしを大事にしてくださるのよ」
指輪を撫でながらレイニー殿下の話をする。
接点も何もない。まともに話したこともないのに、わたくしが作り上げる物語の中では、わたくしたちは恋人同士だった。
嘘は嘘を呼び、雪だるま式に大きくなっていく。
あの日の愚行をごまかすために始めた嘘の物語は、ずっと続いている。今流行の小説になぞらえて話をすれば、エマは食いついてくれた。
「そして、今日はね、庭園でお茶をして、この指輪をプレゼントしてくださったのよ。わたくしへの愛情の証ですって」
恥じらうように顔を隠して頬を染めるわたくしをニコニコとした笑顔で見ているエマ。
「お嬢様はお幸せですね」
着替えをすませて髪を梳いてくれるエマが鏡越しに温かい眼差しを向ける。
「そうね、でも……この恋は実らないかもしれないわ。だから……」
悲し気に顔を伏せるわたくしに状況を慮ったエマは、それ以上は何も言わなかった。
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