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「大丈夫よ。いつまで続くかわからないけれど、今の幸せを大事にするわ。何があってもわたくしはレイ様を愛し続けるの」
気を取り直してなるべく明るくふるまうとエマが目頭を押さえていた。ぐすぐすと鼻をすする音も聞こえる。
健気なわたくしに感情移入したらしい。
上手くいっている。
悲劇のヒロイン。
それがわたくしの役どころ。
フローラはわたくしとレイニー殿下の恋路の邪魔をする悪役令嬢。
嘘に真実をほんの少し混ぜて話を作る。最初は拙かった物語も慣れてくれば次々と出てくるエピソード。
出会いはガーデンパーティーでそこからお互いにひとめぼれ。そして、西の宮で何度も逢瀬を重ねる。そこへ横恋慕したフローラが、二人の邪魔をしていろんな権力を使って殿下に結婚を迫っている。そんなストーリー。
そのストーリーを実行するために遅く帰ったり、休日は用もないのに外出したりしてアリバイ工作をしている。
過去の外出のいくつかはレイ様に会うためだったと話した。
今日はプレゼントの品を買うために宝石店まで行ってきたわ。つけだと証拠が残るから、現金で買ったそれをレイ様からのプレゼントだと偽った。
だって、恋人同士なのに贈り物がないのはおかしいでしょう?
物語の真実化は思ったよりも楽しくて、レイニー殿下をレイ様と呼ぶたびに胸がときめいて幸せな気持ちになるのよ。
そして、それを我が事のように喜んだり怒ったりしてくれるエマがいる。彼女はわたくしの同志。わたくしの物語には欠かせない人物なのよ。
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