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「旦那様にお願いは出来ないのですか? 事情をお話すれば、きっと分かって下さるのではないでしょうか」
わたくしはかぶりを振った。
「無理よ。この結婚はお父様もお母様も大賛成なのよ。だから、それは無理なのよ」
「それではあまりにも酷すぎます。お嬢様は公爵令嬢。それなのにレイニー殿下と結婚できないのはおかしすぎます」
「そうね。でも、結婚はそれだけでは成立しないのよ。色々な政治や駆け引きの中で行われるの。権力や利権や様々なことが動くのが王族や貴族の結婚なのよ。爵位や恋だけで結ばれるわけではないの」
恋で結ばれる結婚だってある。わたくしの結婚はそうであって欲しかった。叶わない望みを今だって夢見ている。
「おいたわしい。なぜ、お嬢様がこんな目に合わなければいけないのでしょう。愛し合っているお二人を引き裂くような結婚なんて」
わたくしの前で崩れ落ちるように膝を折って、涙をこぼすエマを優しく抱き寄せる。
「エマだけよ。わたくしの気持ちをわかってくれるのは。あの侯爵家も有数の資産家ですものね。仕方がないわ」
暗に原因はあちらの方にあるのだとちらつかせる。
わたくしは意に染まぬ結婚。フローラは恋愛でレイニー殿下と結ばれる。この違い。
何かのせいにしなくては納得できない。
「そんな……権力を使ってお嬢様の恋を踏みにじるなんて。そんな非道がまかり通るなんて」
悔しさを露わにするとエマの頬に幾筋もの涙が流れ落ちる。
資産家である侯爵家が圧力をかけて主人の恋路の邪魔をする。しっかりと出来上がった筋書きに憤慨しわたくしに同情するエマ。
フローラを悪役令嬢に仕立て上げた物語は終盤を迎える。
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