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「婚約を発表してからは、随分と静かになったけれど。あの頃は何だったのかしらね。何かに操られてでもいたのか、陰謀論まで出るくらい異常だったのよ。でもね、その中でも変わらずに殿下はわたくしを愛してくださっていたし、わたくしも殿下への愛があるから乗り越えられたのだと思うわ」
にこりと笑ったアンジェラ様の瞳には揺るぎない信念が宿っているように見えました。
「フローラちゃん、泣かせるつもりはなかったのよ」
知らずに頬を伝っていた涙。
アンジェラ様が慌ててハンカチを当ててくださいました。
「申し訳ありません」
ハンカチを手に取ると目元の涙を拭いて気持ちを落ち着けました。
アンジェラ様が経験した事に比べれば、私の問題などちっぽけな事。取るに足らないもの。
「もうすでに過去の事よ。わたくしは王太子妃になり世継ぎたる男子も生んでいる。役目も果たしているわ。あんなことを話すつもりはなかったのだけれども」
アンジェラ様の声が途切れたタイミングで、透明のカップに注がれたのは色鮮やかなルビーレッドの飲み物。ローズヒップティーでしょうか。
庭園に目をやれば、リッキー様が元気に遊んでいます。
その様子を慈愛の眼差しで見守るアンジェラ様。
平和で和やかな母子の姿。
この光景のためにどれだけの忍耐と努力と愛の絆があったのでしょう。
「二人の気持ちが大事よってわたくしは言いたかったの。お互いが想い合っていることが何よりも大事だと思うわ。フローラちゃん、自分の気持ちを大事にしてね。後悔しないように、ね」
止まった涙がまた溢れてきました。
再び慌てたアンジェラ様が二枚目のハンカチを手渡してくださいました。
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