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「うわっ、何をするんだ」
護衛騎士の声が聞こえて、彼らめがけてリンゴを投げつける農民。
「おい、何を考えているんだ」
身を守るように手で顔を庇っている騎士たちに容赦なくリンゴを投げつけていました。
相手は農民です。剣を抜くことも憚られるのでしょう。
無残にも石畳の道路に叩きつけられたリンゴはつぶれて果汁がどこそこに飛び散っています。
一人の護衛騎士が馬に乗り駆けていきました。
なぜこんなことをするのか。目の前で起こっている惨事に体が強張って頭が働きません。
何が起きたのか理解する間もなくバンッと乱暴に馬車のドアが開け放たれました。
驚いて音がした方に顔を向けると見たこともない男が、馬車の中に入ってくるところでした。
「どなたですか?」
かろうじて声を出すことが出来ました。
ぼさぼさとした髪に無精ひげ、浅黒い肌、服は所々擦り切れていていました。見るからに真っ当な風貌には見えません。
「やっぱ、貴族のお姫様は違うねえ。身なりもいいが、いい匂いがするぜ」
へへへっ。
下品に笑う男は血走った眼で私を舐めるように見回して品定めをしているように見えました。
「い、いや」
少しでも離れようとシートの隅に身を寄せます。自分の身を守るように腕を抱きしめました。
その間にも男は私へとにじり寄り、荒んで濁った目が私を視界に捉えると顎を掴んで上向かせ、分厚い唇をゆがませて口の端を上げました。
「誘拐するだけじゃあ、もったいねえな。すべすべの白い肌に清純で可愛らしい顔。体つきもまあまあよさそうだしな」
下品な笑いといやらしい目つきで眺めまわした男は、私の身体を捕まえると外へと引きずり出そうとしました。
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