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「た、たす……」
声を出そうとした時に、口を手で塞がれてしまい言葉になりませんでした。何とか連れ去られまいともがきますが、ズルズルとシートの上を滑るばかり。
「お頭、早くしねえと警備隊が来ますぜ。早く、ずらかりましょう」
「わかっている。みんな急ぐぞ」
剣がぶつかる音も聞こえてきます。
その間にとうとう馬車から引きずり出されてしまいました。男の腕から逃れようと動きますが男の身体はびくともしません。
足をバタバタさせた拍子にヒールが石畳の溝にはまってしまって、抜けなくなりました。どうにかして靴を取ろうと捩っているとぐきっと足首に痛みが奔りました。
「やべ、警備隊が来ましたぜ。おい、ずらかるぞ。急げ」
「悪く思うなよ。お嬢ちゃん」
目の端に幌馬車が映りました。
仲間だと思われる男達が乗り込んで、私を捕まえたお頭と呼ばれた男を待っているようでした。
ジタバタと足を動かしようにもすごい力で押さえつけられて身動きが取れず。
「大人しくしな。そうすりゃ、無傷のまま匿ってやるからよ。なんたって大切な金づるだからな」
酷薄に顔を歪めた男にゾゾッと寒気が襲い硬直して頭が真っ白になりました。
このまま連れ去られる。
待っているのは生か死か。命があったとしても、これから先、まともな人生など送れないであろう恐怖に戦慄して、走馬灯のように頭に浮かんできたのはレイ様の顔。レイ様の熱い眼差し。レイ様。
助けて。
抗うことも出来ない無力な自分に絶望しかけていた時に
「フローラ様に触んじゃねー。手を離しやがれ。汚らわしい。この外道がー」
天を劈く怒声が聞こえたと同時に
「グ、グゥエッ」
男の呻き声がしました。
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