49 波乱のあとで

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「フローラ様。捻挫を軽く見てはいけませんよ。最初の治療が肝心なんです。捻挫は癖になりやすい怪我ですからね。しっかりと直しましょう。痛み止めと熱が出る可能性もあるので解熱剤も処方しておきますから、我慢せずに必要な際にはお飲みください」 「はい。ありがとうございました」  治療が終わると先生はそばに控えていたエルザに処方箋を渡すと医務室まで取りに来るようにと言付けて、部屋をあとにしました。  それからは、体を清めてもらい部屋着に着替えるとソファに座りました。すっかり寛ぐ態勢になっているのだけれど、どうなっているのかしら?  テーブルには紅茶とお菓子が用意されていて私を誘っています。  ノックの音がして返事をすると    「ローラ」  部屋に入ってきた方はレイ様でした。 「レイ様」  心痛な面持ちで目の前まで来たレイ様は膝を折るとガバっと私を抱きしめました。  レイ様の温もりが懐かしくて、私の心を徐々に溶かしていきます。 「ローラ。顔を見せて?」  抱きしめた体を離したレイ様は、私の顔をまじまじと見つめるとおそるおそる手を伸ばして頬に触れて、それからまた腕の中に抱き込まれました。さっきよりもずっと深く。  先生の診察の間、レイ様は別室で待機していらしたので、話す時間はなくてようやくレイ様の顔を見ることができました。 「ローラだ。よかった。姿を見るまでは生きた心地がしなかったんだ。よかった。無事で」  涙が混じった声で身を案じていたレイ様の思いに触れて、無事に帰ってきたのだと実感が湧いてきて 「レイ様。レイ様」  名前を呼びながら、しがみつきました。レイ様の温もりを確かめるように。  シトラスの香りに包まれるとみるみるうちに瞳に溜まった涙が頬を濡らしていきました。  レイ様だと認識した途端に張り詰めていた気持ちが一気に崩壊してしまったのでしょう。止めどもない涙を流してレイ様の胸に顔をうずめて泣きました。
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