50 ビビアンside⑤

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 こんな光景を見るために学園に来たわけではないのに。  苦痛でしかないこんな場面、すぐに立ち去ってしまいたいのに、わたくしは地面に縫い留められたように動けない。  悔しさと虚しさと嫉妬が交差する胸の内、誰かわかってくれるだろうか。  ずっと、思い続けた恋しい人が別の女性と寄り添っている姿なんて誰が見たいと思うの。  ギュウと締め付けられるような胸の痛み。泣き叫びたくなる衝動を抑えるために、皮膚に食い込むくらいに強く握りしめた手。    フローラは殿下の乗った馬車を見送るとディアナと共に歩き出した。  待ち構えたように周りに集まる生徒達。  たちまち生徒達に囲まれたフローラは頬を染め照れくさそうに微笑みながらわたくしの前を通り過ぎていった。どんなに睨みつけても、意に介さずわたくしのことなど眼中にないとばかりに。  フローラがいなくなった後、それぞれの校舎に入っていく生徒達。誰もいなくなった停車場に一人残る。  学園では今日の二人の話題で持ち切りなのでしょう。そんなのは耐えられない。わたくしは具合が悪いことを理由に早退した。  これは夢かもしれない。夢であってほしいと願いながら。  けれど、その願いも空しく終わる。  畳みかけるように次の日、レイニー殿下とフローラの婚約が正式に発表されてしまった。  現実を突きつけられて。  僅かな希望も断たれて、粉々に完全に打ちのめされた絶望の瞬間。  何もかも人生が一変したこの日をわたくしは一生忘れない。
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