50 ビビアンside⑤

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 お父様もお母様も沈黙したまま暗い顔をしている。見るからにいい話ではなさそうだった。  騎士達は椅子に座ることもなく立っている。  これから何が起こるのか、皆目見当がつかない。  そういえば、お茶一つ出ていないわ。わたくしも席に着いたのにお茶の準備でメイド達が入ってくる気配もない。  お父様の後ろの壁にヨハンが控えているだけ。  彼らが何者なのか紹介さえないのかしら? 挨拶一つないわ。  騎士達の無表情で無言の圧は重々しく、異様な空気が漂う。 「皆さんおそろいのようですね。それでは、シュミット公爵閣下。先ほども説明いたしましたが、よろしいですね?」  先頭にいる騎士がお父様を見て口火を切った。 「ああ」  お父様が返事をする。とっさに強張ったお母様の顔がただ事ではないことを物語る。両親はこれから起こるであろうことを知っている。わたくしの身体の中を緊張が駆け抜けていく。 「では」  わたくしの方に体を向けた騎士が一枚の書状を広げ読み上げた。 「フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢誘拐未遂事件の重要参考人として、エマ・ウィルソンを王城に連行する」  重苦しい室内に朗々とした声が響き渡った。
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