50 ビビアンside⑤

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「ヒッ」  後ろから声にならない小さな悲鳴が聞こえた。  フローラ? 誘拐? 未遂? 重要参考人? エマ?  騎士から聞かされた内容が消化できず、頭の中をぐるぐる回る。読み上げた書状をコートの内ポケットにしまった騎士が後ろに控えていた騎士達に合図を送った。 「い、いや、ちが……あ、あっ……」  言葉にならない声を出し、後ずさるエマ。  靴のかかとが絨毯にひっかかって尻もちをついてしまった。頭を左右に振りながら、なおも逃れようと必死に体を動かしている。 「エマ」  恐怖で腰を抜かして立てないのだろうと思い助け起こそうと腰を浮かせると 「ビビアン。やめなさい」  お父様の制する声が飛んだ。青白い顔をしたお父様の目は余計なことはするなと訴えていた。ただ、わたくしのメイドを助けたかっただけなのに。仕方なく椅子に座り直した。   「エマ・ウィルソンだね」  目の前まで近づいた騎士達。エマの顔にスッと影が差して、名前を呼ぶ声がした。 「えっ……あ、い、やっ……」  追い詰められてしゃべることさえできぬほどガタガタと震えるエマの身体。 「連れていけ」  冷然な声が響き、若い騎士達がエマの両脇を抱えて身体を起こして立たせた。支えられてやっと足を地につけるエマ。 「い、いや。わ、わたし、は……」  引きずられるように連れていかれるエマをどうすることもできない。お父様達は成り行きを見守っているだけ。  何が起きているのかさえ把握できていない。何をどうすればよいのか……
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