50 ビビアンside⑤

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「お嬢様……」  部屋から出て行く瞬間、振り返って助けてと言わんばかりに、すがるような悲愴な目でわたくしを見たエマ。  黙って連れ去られるのを見ることしかできなかったわたくし。状況もわからない今のわたくしに何ができただろうか。 「シュミット公爵閣下、ご協力感謝いたします。それではこののち、呼び出しがありました際には、可及的速やかにご登城なさいますようにお願い申し上げます」 「ああ、承知した」 「では」  残っていた年上の騎士がお父様に敬礼をして部屋を去って行った。  いったい、何が起きたのか。何故、エマが連れていかれたのか。いったい、何が起きたの?  一瞬にして、天国から地獄へ落ちた気分。  シンと静まり返った部屋の中。深い深い沈黙が落ちる。 「お父様、いったい、何があったのですか?」  強張った空気が緩み始めた頃、状況を聞くために口を開いた。 「数週間前にフローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢の誘拐未遂事件が起きた。その時の犯人の盗賊達は全員捕まり、捜査が行われていたんだ」 「知らなかったわ」  誘拐未遂なんて重大な事件。噂一つ流れてこなかった。 「厳重な緘口令が敷かれ秘密裏に捜査が行われていたようだからな。わしたち、大臣でも聞かされたのはレイニー殿下とフローラ嬢の婚約のあとだった。事前に明かされれば殿下との婚約に水を差すことになる。そこを憂慮しての事だろう」  レイニー殿下とフローラの婚約。心の奥がズキっと痛んだけれど過ぎたことよ。そう思い直すと心に蓋をして話を進めた。 「でも、何故、エマが?」 「犯人の供述に共犯をうかがわせるような疑わしいことが出たらしい。それで、取り調べをすると騎士が言っていた」
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