50 ビビアンside⑤

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「共犯?」  フローラの誘拐にエマがかかわっているですって? そんな…… 「ああ。そなたが一番そばにいたのだから、最近のエマの言動におかしな点とか不審な点とか心当たりはないのか?」   「そんなことあるわけありませんわ。エマはずっと変わらず、いつものエマでしたわ」  そうよ。わたくしの世話に献身的で忠実なわたくしのメイド。  わたくしの話を熱心に聞いてくれて、笑ってくれたり悲しんでくれたり、時には怒ってくれる。そんな心優しい人。  わたくしの話? まさか、そんなはずはないわよね。   「そうか……」  落胆したのかホッとしたのか、複雑な表情で嘆息したお父様。お母様は口を引き結んでテーブルを見つめていた。 「なに。うちのメイドが誘拐事件にかかわるなどとそんな大それたことをするはずはない。すぐに容疑が晴れて釈放されるだろう。二、三日もすればエマも帰ってくるだろうから、ビビアンもあまり力を落とさないようにな」  わたくしの肩をポンポンと軽く叩いたお父様は明るい口調で元気づけてくれた。  そうよね。  お父様の言う通り。何かの間違いよ。きっと、人違いなのよ。  そうよ、すぐに帰ってくる。  その時は温かく迎えてゆっくりと休ませてあげるわ。エマの笑顔を思い出しながら、訪れてほしいその日を想像する。  言い知れぬ不安に押しつぶされそうになる気持ちを奮い立たせて、わたくしは無実である可能性に追い縋った。
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