50 ビビアンside⑤

15/29
前へ
/774ページ
次へ
♢♢♢♢♢♢  十日経った頃。 「先程、呼び出しがあってね。お父様は登城しているわ」  学園から帰ってくるとお母様が玄関で待っていて、開口一番にわたくしに告げた。  今日はお父様はお休みだったのに呼び出されたのね。きっと、エマの件よね。 「もう少ししたら、エマを連れて帰ってくるわね。よかったわ」  久しぶりに見たお母様のにこやかな笑顔。 「ええ。わたくしも嬉しいですわ」  二人で微笑み合うと紅茶を飲んだ。  美味しいと感じたのは久しぶりだわ。  一緒に出されたケーキが美味しそうに輝いて見える。ケーキに手を伸ばして頂くとこれまた美味しい。  ケーキって甘かったのね。味覚を取り戻したわたくしはぺろりとケーキを平らげてしまった。  そんなわたくしを見てお母様が「子供みたいね」ってコロコロと笑っていた。  淑女らしからぬふるまいではあったけれど、叱られることはなかったわ。それよりも喜びが勝っていたから。  やっと、やっと。待って、待って、待っていたわ。  あと少しで、エマに会えるのね。  サロンでお茶を飲みながら喜びで胸がいっぱいになった。  エマが帰ってくる。  それだけしか頭になかった。信じて疑わなかった。お母様も同じだった。  これから、いつもの日常が始まるのよ。  わたくしも前向きに結婚について考えることを誓うわ。  自分の結婚のことをお母様だけに任せては申し訳ないもの。それにこれからは教示もよく聞いて結婚後の参考にしなくてはいけないわね。  雲間から日が差したようにパアと目の前が開けると積極的に行動しようと意欲も湧いてくるわ。    これまで不幸だと嘆いていたことも幸せに思えて、お母様と談笑しているとお父様の帰宅を知らせる報が届いた。
/774ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3367人が本棚に入れています
本棚に追加