50 ビビアンside⑤

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「それから、フローラ嬢にいじめられていたそうだな。教科書を破られたり突き飛ばされたり、権力を使って殿下との仲も邪魔されていたとも聞いた。これも初耳だったが、事実であれば由々しき事態。ブルーバーグ侯爵家に事実確認を行い場合によっては抗議と慰謝料も請求するが、いいのだな?」   さらに突きつけられる架空の事件。顔面蒼白になった。わたくしのついたいくつかの嘘が巡り巡って己に帰ってくる。こんなはずではなかったわ。結婚が決まるまでの間、ささやかな夢を見ていたかっただけなのに。 「い、いや……」  左右に首を振るだけで言葉にならない。お父様の容赦のなさと鋭い眼光にじりじりと崖っぷちに追いつめられていく感覚に手の平の脂汗で扇子がぬめっていった。お母様は沈黙を保ったまま、助けてくれない。 「心配しなくてもいい。そんなことはしない。いじめたのはビビアン、そなただとわかっている。証人がいるからな」 「いじめって?」  それこそ身に覚えがないわ。誰がそんなことを言ったの? 「心当たりはないのか? 随分と酷い言葉でフローラ嬢を詰っていたそうではないか。誹謗中傷を何度も繰り返してフローラ嬢をいじめていたと証言があるのだがな」 「誹謗中傷って、少し言葉は過ぎたかもしれませんけれど、間違ったことは言っていませんし、忠告めいたことは言ったかもしれませんが」  あれが誹謗中傷って、ちょっとした嫌味くらいではないの? 社交界だって嫌味や当てこすり、悪口なんて日常茶飯事でしょうに、わたくしだけが悪者になるのはおかしいわ。
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