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甘味日和
テーブル席にケーキセットが並べられていく。アイスコーヒーにカプチーノ、フルーツタルトにいちごみるくケーキ……向かいの席につく後輩ふたりは目を輝かせ、隣の美紘は穏やかに笑っていた。4人分が整い店員が去っていくと、彼女は綺麗に両手を合わせる。
「さあ、さっそくいただきましょうか」
「はい、いただきます!」
「いただきます!」
桃花と欄の元気な声がカフェに響いた。お上品、と内心で苦笑いしながらも亜希は合わせて唱和する。
オレンジ髪をショートカットにした活発そうな少女だ。お嬢様学校の清楚なブレザーを思いきり着崩しピアスをつけている。身長は168センチと大柄だ。
だけどメニューは可愛らしい。キャラメルマキアートとオレンジケーキ。ラテアートの桜模様を嬉しそうに見つめてから味わうようにひと口含む。豊かな香りにほっこりして、フォークを手に取っていた。
輪切りのオレンジごとスポンジをひと切れ取る。口に入れると甘味と酸味が口内に広がった。ほろほろとほどけていくスポンジ。コンポートの歯ごたえ。少しだけ苦くてしっかり甘い。頬に手を当てている。
(あぁ~、おいしい)
初めて来たが“当たり”だ。内装も明るくて清潔だし、店員の制服もかっこいい。ほどよく賑わっているが、おひとり様用の静かなスペースもある。持ち帰りもできるようだ。
いいカフェを教えてもらった。後輩ふたりに感謝せねば。部活終わりに誘われたのだ。こちらはおまけだったのだろうが、それはいつでも同じこと。
どういうことかというと、美紘だ。
彼女は弓道部の部長をしていて亜希は副部長をしている。1年のときから美紘と親しくしている亜希は、女子に人気のある美紘の常におまけであった。
それに関しては特に気にしたことはない。気にしていたら友達なんてしてられないし、亜希に親切な女子だっている。あからさまな嫉妬などは一度もされたことはない。
だが桃花の登場の仕方には驚いた。打ち合わせが終わった途端に美紘の腕に飛びついてきたのだ。
「美紘先輩! このあとケーキ食べに行きませんか? おいしいお店を見つけたんです!」
亜希はひやっとした。美紘がキレるのではないかと。この学校には育ちのいい女生徒が多いので、いきなり抱きつくような猛者はいない。
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