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例外なく美紘も生粋のお嬢様なのだが。ライトブラウンのロングストレートを後ろでゆったり三つ編みにし、レモン色の穏やかな瞳をたたえている。いつも聖母のように微笑んでいて、同輩にも後輩にも慕われている。だが感情を露わにしないからこそ恐ろしいということもある。
非情というか、腹黒というか。
自分に恋した子羊達にその気もないのに希望を持たせる。思わせぶりな言葉を吐き、告白を受け入れもする。けれど強固な壁を築き、それ以上は立ち入らせない。
子羊達は打っても響かないことに苦しみ、泣いても怒っても躱されてしまう。あくまで単なる知人として扱われ、友人にもしてもらえない。やがては分不相応だったと諦め一ファンへと堕ちていく。
その様を見て嗤っている。馬鹿が今日もひとり相撲をしていると。美紘が家族との関係や婚約者の存在など、自由にならない境遇の中で苦しんでいるのは知っているが、こんな風に憂さ晴らしをするのは違うと思う。
隣で見せつけられる身にもなってほしい。美紘に注意をしても相手の女子に忠告をしても言葉が届いたことはなかった。桃花や欄も同じ目に遭うのだろう。特に美紘を怒らせた桃花はひどく傷つけられるかもしれない。
可愛い子なのに。
美紘を見つめる桃花を見やる。
小柄で明るくまるでカナリアのような声を奏でる。桃色のゆるふわヘアを耳の後ろでふたつに結び、ぱっちり開いた水色の瞳を輝かせていた。
欄の方は静かに桃花を見守っている。三白眼に日本人形のような黒髪ロング。ぱっと見クールな印象だが、親友を傷つけられれば感情を露わにしたりするかもしれない。
(しまったぁ……)
嫌な想像をしてしまった。甘味が途端に味気なくなりキャラメルマキアートも色褪せる。嫌だなぁ。せっかくの癒やしタイムなのに。
たまにはひとりでお茶してみるか。誰のことも気にせずゆっくりと。いや、クラスメイトを誘ってみるのもありかもしれない。いつも部活単位で行動しているが、そればかりだと視野が狭くなるからな。
「亜希ちゃん先輩!」
そんなことを考えていると不意に欄がこちらを呼んだ。浮気がバレたような気分でびくりとすると不機嫌そうに睨まれる。
「あ、どした?」
慌ててにこりと笑いかけるが欄はフォークを振りかぶった。それは亜希のオレンジケーキにぐさりと突き立ち、こちらは思わず悲鳴を上げる。
「ちょ、それあたしの!」
欄の口に飛び込んでいくケーキを寸でで止めていた。手首を掴んで引き戻そうとするのだが、抵抗は思いのほか強い。
(取り戻せない!? 何この腕力!?)
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