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ゆかりと背の高さは同じくらいなのに留の指は太く、腕は力強かった。
床から引き上げられて、
「あ、ありがとうございます」
と礼を言うと、
「いーえ。あんた、土より軽いわ」
と、留が答えた。
(土? なんだろう……)握られていた手を離して自分で立ったゆかりの目の飛び込んできたのは、咲良という女性の横にぴたりと体を寄せて肩を抱く桜亮の姿だった。
「急に立ち上がろうとするなよ。すぐ立ちくらみを起こすんだから」
桜亮の言葉は、聞くだけなら自分にかけられたのだと勘違いできた。けれど……目にしてしまえば、彼が咲良しかみていないことは明らかだった。
(みっともないところを見られずに済んだから良いじゃない)
と、自分に言い聞かせる。
それにしても。
(あんまりじっと見たら失礼だわ……)と思いつつ、カウチソファに仲良く腰掛けるふたりから視線を外せないでいた。
桜亮の肩越しに見える咲良という彼女の顔は茹でたうずらの卵の殻をむいた風情。いかにも深窓のお嬢様な、黒々とした瞳と、キュッとまとまった桜貝の唇。
桜亮を見上げていた瞳がこちらに動き、ゆかりを捉える。
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