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夜のベランダからマンションの窓の明かりを眺めながらゆかりは想像に浸った。あそこにはもう一人の自分がいてまだ尚人と一緒に暮らしているのだ……。 じゃあ、こちら側にいる自分は一体なんなのだ、という矛盾は一切感じていないゆかりだった。 ひとりなら、その世界は破られない。 しかし生憎ゆかりはひとりではなかった。 家族に友人、これまで生きて来た中、目が合い会話し同じ時間を共有した人たち。 生きていれば関係が生まれ、つながりができる。そしていくら時間を止めたような生活をしようとしても、ゆかりの周りの人々に上がれる時間、起こる変化が、ゆかりに現実の時の流れを実感させるのだ。 四年前実家近くに新居を建てた姉夫婦の子は来年小学校にあがる。親友の小夜子は長年付き合っていた恋人とこの春とうとう結婚した。元同僚の斉藤夫妻は東京へ転勤。尚人とゆかりがよく行った喫茶店ダリのオーナーは久乃は引退し、今はダリの常連で尚人の元恋人(とは言い切れないのだが)の弟、鈴森誠が店を引き継いでいる。 外で起きる変化は仕方ない。 せめて自分だけでも平坦に生きなくては。 変化は良くない。
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