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咲良は悲しげに顔を歪めると、
「あぁ、もうっ。いつまで黙ってんの!」
と窓の近くでじっと座ったまま、これまで一言も話していない〈彼〉に声を荒らげる。
「……ここまで聞いてさ。あんた、もっと私たちのこと、怒らなくっちゃでしょ……っていうか、いい加減ゆかりを迎えに行きなさい。追いかけなって」
と、桜亮の手を振り解きベッドから降りる。
「オンナは追いかけられたいものなの! 追いかけられるってことは求められているってことでしょ」
そして、ツカツカと進み彼女を見上げてくる黒い両目を発しと睨みつけた。
「馬鹿なの? ゆかりはこんな煮え切らない男のことが好きだったの?」
*
海を眺めていると、後ろから抱き締められた。
ビクッとみじろぎしたゆかりの耳元に、
「やっぱり、オレじゃ嫌か? 怯えてる?」
と囁き声。
こそばゆくて落ち着かない。
少し前、ボブだった髪をバッサリ切った。
後ろなんかほぼ刈り上げだ。
今までは髪の中に隠れていた耳に風が当たるのは新鮮だった。
「……怯えてなんか、ないよ」
「じゃあ、キスできる?」
「……」
黙っていると抱擁が解かれ、背中の彼が離れるのが分かった。
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