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式の後、ゆかりたちは式を挙げたホテルにそのまま泊まることにしていた。
ふたりの大切な思い出の日の締めくくりとして……。
このホテルで挙式したカップルだけが泊まれるという特別なスイートルーム。ホテルの最上階から見下ろす夜景は、ここのホテルの呼び物のひとつというだけあって、真っ黒なビロードの上にキラ砂を撒いたように美しい。
今、窓からその景色を見下ろすゆかりには、結婚式の興奮がまだ体の奥に残っているように感じられる。
火照る体を持て余して分厚いガラス窓に額をくっつけていると、隣に人が立つ気配がした。
「式を挙げてよかっただろ?」
尚人だ。
クスクス笑いまじりで聞いてくる。
(ほら、取り越し苦労だっただろ)と言いたいのだ。
ゆかりは直前まで式を挙げることに消極的だったから……。
ゆかりは素直にうなずいた。
「はい。お義母さん、泣いてましたね」
「ふ……、うちの母親だけじゃない」
「そうでした」
ゆかりは今日来てくれた人たちの顔を思い起こした。……ほとんどが泣くか笑うかどちらかの表情、あたたかないい結婚式ができて良かったと思う。
「久乃さん、すっごく、泣いてましたね」
「泣きすぎてハンカチをずうっと顔に足当てているから、帰る時なんて転ばないか俺はヒヤヒヤしたよ」
「誠さんが久乃さんのこと……手を握ってくれていたので、私は安心してましたよ」
「誠には色々世話になってるよな」
「本当に。足を向けて寝れません」
ダリの元オーナーである久乃は、尚人とさやかの関わりについてもよく知っている。その後の尚人とゆかりのことについても……。
だからこそ、感激もひとしおだったようだ。
まぁ、それは他に、小夜子、一美なども同様で、みんな尚人が帰ってきたことに驚き喜び、そして祝福してくれた。
ぐず……と鼻を啜り上げたゆかりの肩に手を置いて、
「どうした?」
と尚人が優しく顔を覗き込んでくる。
「……わ、私、今になってわかりました。みんなにいっぱい心配かけてた。心配してもらえていたんだって」
「咲良さん達もきてくれて。よかったな」
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