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ふ……と微笑んだ尚人がこれでもかというくらいゆかりの頭を撫でてかき混ぜる。
彼の優しさで胸がいっぱいになりつつ、髪の毛をくしゃくしゃにされたゆかりは頬を膨らませた。
「尚人さん、見惚れたんじゃありません?」
「え? 誰に?」
「咲良さんに」
そう、それはちょっとした軽口のつもり。
つもりだったのに。
不意に、ツン、と胸が痛くなった。
「まさか。そうだったら桜亮くんに殺されてしまうよ」
「……だって、似てるから」
今度は涙声が出てしまった。
「咲良さん、さやかさんに似てるでしょ。怖くて、ずっと言えなかったけど」
(こんなに幸せな時なのに。私、馬鹿だ……)
とゆかりは下唇を噛んだ。
ついネガティブに走ってしまう。
そんな自分のことが(イヤ……)なのに、話し始めたら、それが真実に思えてきて、ゆかりはキュッと両手を握りしめる。
「えぇっと、その。だからあの……。結婚、やっぱりやーめたってなっても私は.…その。一緒にいられるだけで本当に幸せなので。せめてなんとかっ。尚人さんの近くに居させてください」
だんだん目の奥が熱くなってくる。
うつむいたゆかりの頭に、
「……丁寧語はもうよさない?」
という、尚人の声が落ちてきた。
(な、何?)
自分が会話していたのと違う方向に話を振られてゆかりは戸惑った。
「まだ君と距離があるのかって悲しくなる」
おずおずと探る目つきで見上げるゆかりの頬を尚人の手が包む。
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