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「君を不安にさせたことを許してほしい」
と、ゆかりの下唇をチョイとつまんだ尚人は眉を下げてゆかりを見つめてくる。
「式を終えた今更、神に誓った後になって疑われるなんて。俺はまだまだだ……」
肩をすくめる尚人に、ようやくゆかりの眼に光が戻ってきた。
(困った表情も、カッコイイ……)と頬に血を昇らせたゆかりを見て尚人もニヤリとした。
「だから、改めて教えなくちゃ、だな」
「え?」
何を?
と聞こうとしたゆかりの服の中に尚人の手がいたずらに差し込まれてきたのだ!
「……あっ……」
と、身をよじり睨んでみても、尚人はどこ吹く風といった感じで口元に笑みを浮かべている。まるで、声を押しころすゆかりの反応を楽しんでいるように見える……。
「恥ずかし……外から見えるか……も」
切れ切れになんとかそう言ったゆかりの瞳には地上の星が幾万と映っていた。
「ふ……。じゃあ、カーテン閉めようか?」
優しい提案とは裏腹に、尚人の手つきはゆかりをとろりと甘く追い詰めていくようだ。
もはや声も出せない様子で身悶えするゆかりの額に唇を押し当てて、
「愛してる、ゆかり。ずっと……」
と繰り返す。
「……っん、私も……」
かすかに聞こえてきた返事に破顔した尚人は、愛しい妻を懐にしまいこんだのだった……。
〈了〉
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