プロローグ

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(今、私は世界で一番幸せな人間だ……) と心の中でつぶやく。早くこの姿を尚人に見てもらいたい。見てもらいたのだが。 「すみません、尚人さんが遅れてしまっていて……」 「急に出張が入ったんでしたよね」 「えぇ、でも前撮りには絶対間に合わせるからって……」 「今頃近くを走っていらっしゃいますよ。ひどく慌ててお見えになるかも。月島様はステキですから、ちょっと髪が乱れている方がセクシーかもしれませんね?」  小杉が鏡の中で悪戯っぽく微笑んできた。 若干のからかいはゆかりの緊張と申し訳なさを軽くしようというプロの心遣いなのだろう。  その笑顔に微笑み返しながら、ゆかりは、あっ……となった。 今日の前撮りのために彼女以外、カメラマンや他のスタッフたちも関わっているのだ。尚人の到着の遅れで迷惑をかけているかも……とようやくそのことに気づいたから。 幸せにすっかり目が眩んでしまっていたのだ。自分のことばかりで周囲に気が回らなかった恥ずかしさにゆかりは頬に血を上らせた。 「〜〜っ! ホント、待たせてしまって申し訳ありません」  反射的に下げようとしたゆかりの頭を小杉が慌てて両手で押さえて止める。
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