プロローグ

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下を向いてしまったゆかりのベールとヘッドドレスの位置を確認しながら小杉が、 「気になさらないでください。どの方のウェディングも全てが順調に進んだなんて事は無いんですから」 と返す。鏡の中のゆかりが小刻みにふるふると首を横に振る。さっきのオーバーアクションを反省しているのだろう。小杉は(ホント、可愛らしい新婦さんだこと)と密かに込み上げる笑いをかみ殺した。 「いえ、それでもホントにごめんなさい。いつもはこんなんじゃないんですけど……あ、スマホ」  サイドボードに置かれたバッグの中から電子音。ゆかりの表情が(動いてもイイですか)と問いかけている。小杉は思わず()で微笑んでしまった。 「取ってきましょうか?」 「お願いします」 ゆかりがスマホを耳に当てる。小杉はそっと部屋の隅に退いた。壁に背中を張り付けうつむいて気配を消す。 ふと、小学校の授業で「整列」「休め」の姿勢を教わった時を急に思い出した。この新婦もいずれ子を持ち、家族を成していくのだろう……。  話の相手に相槌を打っていた声が途絶えて、通話が終わったのだろうと小杉は顔を上げた。  しかしゆかりはスマホを耳に当てたまま、 「……え?」 と(はっ)し、視線を一瞬彷徨わせ……小杉と目があった。
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