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——遺体はすっかり炭化していて……性別すらわからなかったって……。でも、歯形が合ったそうなの。間違いないって……。
「香月さん、ほら、こっちに来て。遠慮しないで……あぁ、咲良を呼んできてくれないか、留さん」
桜亮の声ではっと現実に引き戻された。
と同時に、それまでゆかりを取り巻いていた過去の記憶がサッと消える。
いつもこうだ。
不意に現れ不意に消えてゆく。
先をゆく桜亮に付き従ってリビングに入った。広い、広い。部屋の真ん中にはトルコ絨毯が敷かれ、猫足のローテーブルの周りにどっしりとしたソファが置かれている。そふぁはL字型に配置され、一つはベッドと見紛うばかりのゆったりサイズなカウチソファ。そこに五月のこの季節には不似合いな厚手のストールを体に巻きつけしなだれるように女性が横たわっていた。
あ、と声をあげて桜亮が彼女の足元にすっ飛んでいった。
「咲良!」
女性がうるさそうに眉を顰めて目を開ける。
「留さん、留さん。咲良、ここにいた」
「あれ、ま。ようございました。お探ししたんですけどね、そちらにいらっしゃいましたか。じゃ、お茶をお持ちしますんで……」
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