嫉妬とか?

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嫉妬とか?

「うん、どうしてかな?と」 横並びの私をくるりと回転させて、結城と真正面に向かい合った。 「え?なに?」 「俺、本当は森下さんと付き合えることになってずっと舞い上がってるんです。でも、浮かれて仕事を疎かにすることだけはしないように、森下さんが恥ずかしくないようにしたいんです。そうしないと釣り合わないってわかってますから」 「そんなふうに考えてたの?」 「当たり前ですよ、できる男になって堂々と森下さんと付き合いたいんです。特にあの人には負けたくないんで!」 _____あの人?あ、アイツのことか 健介の顔が浮かんだ。 「負けてなんかないよ」 「違います、負けてるかどうかは俺が判断するんです」 とん、とテーブルを叩くつもりだっただろう結城の手が当たって、ワイングラスが倒れた。 「あー、やっちゃったね」 私は急いでおしぼりで結城のシャツと手を拭いた。 「もう、なんで大事な時にこうなるかなぁ?」 悲しいとも悔しいとも見える結城の表情だった。 「あのさ…結城くん、仕事で頑張るのはいいことだよ?目的がどうあれね。でもね、私といる時くらい、こんなことがあった方が私は安心するよ。あんまり立派な男になってしまったら、私が気後れしてしまうから」 ね?と言いながら、結城の唇に付いていたチーズのカケラをつまんだ…その指を結城はそっと舐めた。 そのままじっと見つめられて、背中がゾワゾワする。 「そんなこと言うと、俺…オトコになっちゃうかも?」 「いやいや、もともと男でしょうが!」 「ふふっ、違うんだなぁ…森下さん」 結城の湿り気を帯びた眼差しが上目遣いで私を見る。 _____キスしたい 思わず浮かんだ感情に、自分で驚いた。もう何年も前に、そんな欲はなくなったと思っていたのに。そんなことを考えてるなんて、結城にバレないかとドキドキしてしまう。 「とにかく、今日はゆっくり飲みましょう。初めての二人だけの時間なんですから」 何もなかったようにお代わりください、とお酒を注文する結城の横顔を見た。 _____こんなにイケメンだったっけ? この男が私のことを好きだと言ってくれるなんて、嘘のようだ。 ネクタイを外した襟元から、くっきりと見える鎖骨が妙に艶かしく見えた。よくよく見るとすべてにムダがない。飲み物を流す喉仏も、食べ物を咀嚼する白い歯も、脱毛してあるような髭のない頬も。緩くパーマのかかった髪の色は柔らかい栗色で日下が目をハートにするのも、今なら納得がいく。 そして高い身長にあわせたように大きな手のひらは、とても温かいことを私は知っている。 アヒージョの海老をフォークに刺して食べようとしている口元は、とても柔らかそうだ。 _____これまで何人の女性とキスをしてきたのだろう… 「えっ?」 思わず声を上げてしまった。私は一体何を考えているんだろう? 「ん?どうしたんですか?森下さん」 「ううん、なんでもない。私も何かお代わりしようかな?うん、えーとハイボールもあるんだね、これにしよう」 『嫉妬』という感情があったことに、また驚いたことは結城には内緒にしておこうと思った。
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