勉強?

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勉強?

「どこに行ったの?歩美ちゃんのお父さん」 「買い物。お姉ちゃんに美味しいもの作るって言ってた。それから、お姉ちゃん、着替えるでしょ?だからね」 「あ、そうだね」 ルームウェアも下着も汗で湿っていた。着替えを出して、ベッドへ潜り込む。おかげで熱も下がったのか関節の痛みや頭痛も治った。ふらふらするだけだ。 「ただいま」 しばらくして買い物袋を下げて、三木が帰ってきた。 「とにかく何か食べないとね。お出汁をきかせて雑炊でも作るね。アレルギーとかある?」 「ないです」 「よかった。じゃ、ちょっと待ってて」 コトコトと鍋から優しい音が聞こえてくる。誰かにこうやってご飯を作ってもらうなんて、ほとんど記憶がない。 いつもは一人きりのこの部屋に、ずっと誰かの気配がしていて、それがこんなに安心するものなんだと初めて知った。 _____結婚したいとずっと思ってたけど結婚するということは、誰かとずっと一緒にいることなんだ… なんて、いまごろ気づいた。 「はい、どうぞ!熱いから気をつけてね」 ふわふわ卵とネギの雑炊が出来た。 レンゲで掬って、冷まして食べる。カツオと昆布のお出汁がきいていて、お塩もしっかり感じられる。 「美味しい!」 「しょっぱくないかな?汗をかいたから塩を多めに入れてみたんだけど」 「全然!これくらい味がしっかりしてる方が、ずっと美味しいです」 本当に美味しかった。美味しいという言葉以外の表現の仕方を知らないから、それしか言えないけど。これまで色んな高級なコース料理も食べてきたけど(もちろん男性からの奢りで)、そのどれもこの味には勝てない。 「本当、美味しい!」 私が食べる間、歩美は私の本棚とライティングデスクを眺めていた。 「お姉ちゃん、こんなに勉強してるの?」 歩美が手に取ったテキストは、パソコンと英会話と料理だった。他にもペン字や秘書検定、経済学もあった。カルチャーセンターで実際に勉強しているものもある。週に3日は何かしらのスクールに出かけている。雑誌にしても、おしゃれのためのものから自己啓発ものまで多岐に渡っていて、時々自分でも何をしているのかわからなくなる時もあるくらいだ。 「一応ね、やってるよ、全部」 「なんで?勉強好きなの?私は算数も漢字も苦手だよ?」 「なんで?か。うーん…いい男を見つけたいからかな?」 「いい男?」 「あは、ごめんごめん、歩美ちゃんにこんな話してもね」 勉強して賢くなって男に騙されたりしないようになる、そのためだった。母のようにはなりたくないと、それだけを目標にしていた。 「だけど、これじゃあゆっくりできる時間がないよね。それで無理したのかもしれないよ。たまには、のんびりしないと」 三木に言われて考えた。 _____私、無理してたのかな? もっと可愛くなって頭良くなってスタイル良くなって…って、あれもこれもやり過ぎてたのかもしれない。そうしないと幸せな結婚はできない気がしたから。 今はとっても気分がいい。こういうのもいいなと思い始めていた。
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