713人が本棚に入れています
本棚に追加
責任
1日だけ、お休みをもらった。病院に連れて行ってもらった次の日は、歩美が小学校に行っている間に三木だけが来てくれた。おかげで今日にはすっかり元通りだ。
「おはよう、日下さん。もう体調はいいの?」
森下チーフは、お父さんが亡くなってそんなに時間が経ってないのに、もう普段通りに見えた。
「はい、もう大丈夫です」
「じゃ、今日もよろしく!」
ぽんと私の肩を叩いて、デスクに戻っていく。チーフなんてたいした役職じゃないとは思うけど、それでも女性でチーフはとても少ない。
_____いいなぁ
同性として憧れる。
「よっ!おはよう、もういいの?」
「あ、結城先輩、はい、もう大丈夫です」
「そうか、じゃ、頑張って」
ぽんと私の肩を叩いて、外へ出て行く結城。
_____あれ?なんだか、同じ??
さっきのチーフと、今の結城の感じが同じ気がした。なんていうか、角度?言い方?笑顔?…空気?
_____2人の空気感?
なぁんだ、そうか。あの2人、付き合ってるんだ。意外なことに、悔しさも悲しさも湧き上がらなくて、自分でも不思議だったけど。
その時、勢いよくフロアに駆け込んでくる人がいた。
「おーい、大変なことになった!森下、前プロジェクトのメンバーを至急第一会議室に集めてくれ!」
「課長、何があったんですか?」
「お、日下、結城にも連絡取って会議室にくるように言ってくれ。みんなを集めてから話す、関係資料も全て持ち寄ってくれ」
「わかりました」
チーフもファイルやパソコンなど、両手に抱えている。
第一会議室の扉が閉められ、課長からの説明が始まった。
「これで、全員だな?まずは、起こったことを話す」
パソコンから大きなモニターに資料のPDF画面が映された。私が書いた見積もりと費用の計算書だ。
「あれ?」
チーフが声を出す。
「うそ!」
私の名前とチーフの名前があるその書類には、計算が合わない数式が並んでいた。
「そんなはずは…」
私はチーフと目を合わせた。
「その書類は、私も確認しましたが、そんな数字ではなかったし、計算もおかしいです」
チーフが言う。
「だよなぁ、俺も目を通したけどこんな数字じゃなかった。だが、これが経理からの指摘で社長まで行ってしまった」
「日下さん、この書類ってccで、誰かにまわした?」
「いえ、新田さんに送信しただけです、これです」
送信済みファイルを開いて、メールを探す。
「あれ?どうして?ない!」
送信ボックスにあるはずの、送ったメールがなくなっている。
「まぁ、ともかく、こんなずさんな経費の管理ではあのプロジェクトは畳むしかないと社長がな」
困ったと頭をかいている課長。
「たたむ?中止ですか?もう運用も始まろうとしているのに?」
チーフも焦っているようだ。
「そうなんだが、株主総会での議題にものぼってしまうらしい。ここまで使った費用も大きな損失になる。そうなると一気に大問題になる。その前にこのプロジェクト自体をなかったことにしようとしている、そして…誰かが責任を取らなければならない」
「責任…」
そのあと、誰も口を開かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!