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証拠
課長からプロジェクト中止の報告があって、誰かが責任を取らないといけないと言われた時“チーフである私の責任だから少し調べさせてください”と課長に申し出て、一週間の猶予をもらった。
調べると言っても私には健介がやったとしか思えなかったけど、証拠がなかった。
「それって、誰かの陰謀じゃないのかな?」
「三木さんもそう思いますよね?俺もそうだと思います。でも誰が?」
「あ、そうだ!私、作った書類は別フォルダに入れて残してます。パソコンにあるはずです」
日下は仕事用のスマホから会社のパソコンにアクセスしている。
「これですチーフ!ここにあります、新田さんに添付資料として送ったものが」
【書類】と書かれたフォルダに、そのPDFがあった。画面を大きくして数字を確かめる、間違いない。
_____健介がやった?
「ということはやっぱり、新田さんがやったんですかね?」
「そうだと思う。このことは私が新田さんに確認するから」
私は、会社用のスマホで健介に電話をかけた、が、コール一回で切られた。仕方なくメッセージを送る。
『プロジェクトの資料の件で、お話があります。時間をとってもらえませんか?』
返事はなかった。
「ねぇ、そのプロジェクトってやつ、差し支えない程度でいいから中身を教えてくれないかな?」
「興味あるんですか?三木さん。いいですよ、取引先とかは言えませんが、簡単な概要だけなら、どうせ中止なんですから。いいですよね?チーフ」
もう中止が決まったプロジェクトだけど、どうしてもこのまま終わりにするのは残念で仕方ない。働く女性と子どもとそしてそのほかの家族と地域と、今はなくなってしまった人の繋がりを改めて構築するためのものだと思っていた。モニターとして参加してくれた人たちからの、応援もあった。
「なるほど。それはいいアイディアだね、なのにそれが書類の不備で中止に?」
「書類といっても予算や見積もり、領収書といった金銭に関するもので、それらの金額が書き換えられていて辻褄の合わない金額になっているんです。取引先と照合すれば正確な金額はわかるでしょうが、そんなことをするとうちの信用がなくなってしまいます」
「うちの会社の、というより私たちプロジェクトメンバーの信用がまずなくなったってことだよね」
「でもだからって、ちゃんと調査もせずに中止と誰かが責任を取らなきゃいけないって決めたのは社長だよね?」
「もともとワンマンなところもあったけど、最近は株主の顔色ばかり伺ってるからなぁ」
「それに、多分だけど、誰かが口添えした…」
私は健介が書類を書き換え、社長に誰かに責任を取らせることを進言したと思っている。
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