残照の瞬間

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序章  炎が身体をつつんでいる。  炎は生き物のように壁を、天井を好き放題に這っていた。  熱さと熱風で息もできない。  火の粉が髪にも降りかかってくる。  髪の燃える嫌な匂いがした。 “ 助けて “ “ 熱い! “ “ 助けて・・ “  その時、彼は自分の声でない、誰かの声を 聴いた。 “ 誰? “ “ 助けて “ “ 誰かいるの? “    彼は、炎の中で必死にあたりを見回した。  オレンジ色に輝く炎と、金色に舞い上がる火の粉の中に人影が浮かび上がった。 “ 助けて・・ “ “ こっちへ・・早く! “  助けたいと思うのに、身体が動かない。  その時、天井の梁が轟音をたてて崩れ落ちた。  彼は炎の中、人影に向かって手を伸ばした。 “ 助けて! “  最後の声をふりしぼったように、叫び、人影は火の海の中に倒れて行った。 “ お母さん! “  思わず彼は叫び、次の瞬間に意識を失った。
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