19人が本棚に入れています
本棚に追加
序章
炎が身体をつつんでいる。
炎は生き物のように壁を、天井を好き放題に這っていた。
熱さと熱風で息もできない。
火の粉が髪にも降りかかってくる。
髪の燃える嫌な匂いがした。
“ 助けて “
“ 熱い! “
“ 助けて・・ “
その時、彼は自分の声でない、誰かの声を
聴いた。
“ 誰? “
“ 助けて “
“ 誰かいるの? “
彼は、炎の中で必死にあたりを見回した。
オレンジ色に輝く炎と、金色に舞い上がる火の粉の中に人影が浮かび上がった。
“ 助けて・・ “
“ こっちへ・・早く! “
助けたいと思うのに、身体が動かない。
その時、天井の梁が轟音をたてて崩れ落ちた。
彼は炎の中、人影に向かって手を伸ばした。
“ 助けて! “
最後の声をふりしぼったように、叫び、人影は火の海の中に倒れて行った。
“ お母さん! “
思わず彼は叫び、次の瞬間に意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!