花岡 未来 ― 1 ―

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 歩行者用信号が青に変わるのを待って、横断歩道を渡る。渡り切った足で、そのまま公園の向かいにあるコンビニへと向かう。  自動ドアが開くと同時に鳴るポップな入店音に、向けられる挨拶。それから雑誌コーナーに目をやり、それとなく目についたファッション誌を手に取る。パラパラと流し見した巻頭特集によると、どうやらこの冬は暖色系かつオーバーサイズのチェスターコートがマストアイテムらしい。  その週刊誌を陳列棚に戻しつつの私はといえば、アウターはオリーブカラーのフィッシュテールパーカー――いわゆるモッズコートで、それに細身のデニムと8インチハイトのワークブーツを合わせている。まとまりよく収まっているとは思うものの、先の女性誌にあったような女性的魅力は皆無といえる。  思えば、今着ているアウターはもう十年近くも前に、当時付き合っていた彼氏に連れられるままに行った古着屋で買ったものだ。その彼氏とは半年も持たずに別れてしまったし、今では声はおろか顔すら思い出すのも危ういにも関わらず、このアウターだけは今日も私をこの寒空から守り続けてくれている。そう考えると、あの出会いも決して無駄ではなかったのかな――袖口でほつれた縫い目を見ながらに、そんなことを考える。  店内の導線にそって歩きながら、ペットボトルのミルクティーと適当な菓子パンを一つ。それから、レジにてマルボロメンソールのライトをひと箱。公園での一服を含めて、ここまでが私の毎日のルーティンだ。そこには先の立ち読みも含まれていて、つまるところ、何を読むかに関しては関係なかったりする。  比較的ファッション誌の割合が多いが、週刊誌や、青年誌のときもあるし、気が向けば経済情報誌なんかを手に取るときもある。大事なのは何かを読むという行為そのものであり、その内容にさしたる意味求めていない。  コンビニを出ると、先ほどよりも気持ち高度を増した朝日が正面から射し込んでいて、それに左手で庇を作っては歩き出す。  そんな私の目の前を、ふと赤いチェック柄のミニスカートが軽やかに通り過ぎていく。  駅へと向かっているのであろう。その女子高生の足取りは軽く、口元までを覆うマフラーから覗いた頬は、冷気にあてられてかほんのりと赤く色づいている。東から照らすまっさらな朝日はまるで彼女の背中を押しているようで、なるほど、そんな彼女にこそ朝日は似合うのだなと思ってしまう。  上着のポケットに入れたスマートフォンが鳴ったのは、そんな彼女の艶のある髪と、張りのある素足に私が若干の嫉妬を感じていたときだ。  
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