bull shit

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倉庫内は外の喧騒が嘘のように静まり返っていた、ただリフトのコンコンコンと いうアイドリングの排気音と爪に突き刺さったままの動物の荒い息遣いだけだった ここで隆は大きく深呼吸する、ここ数分間、呼吸をしていなかった様な気がした 普段は埃っぽい倉庫内であったが今ここの空気は軽井沢の森の中と同じく 澄んでいるように思えた 隆はリフトから降りるとその場に崩れ落ちた、足腰に力が入らない 血にまみれた手を見ると震えている、死がここまで迫り来たのは初めてだった 情けないとは微塵も感じない、それよりも自分のした事を他人事の如く感心して いたが記憶はほとんどなかった ーーーーガンッガンッガンガンーーーー ここで隆は我に返った、何者かがシャッターを打ち付けてるようだ やっと感覚の戻った下半身に力を込めて立ち上がったところで自分が倉庫の シャッター全てを閉ざしてた事を褒めてやりたくなった ここ『三共倉庫』の建物、特に今いるA棟は防火防煙耐火耐震耐水耐風、 それに防犯とあらゆるお客様からの荷物を安全に保管する為、戦争以外なら建物内 にある物は安全であると思われていた、シャッターなどは特注重量シャッターで 厚みが5ミリほどあり、戦争以外と言ったが銃弾程度なら余裕で防げる厚みだ 先程まで情けない程に震えてた隆だったがここにきて虎の威を借る狐の如く強気に なって足元にあった歯止めをかき鳴らすような音をたてるシャッターに 向かって投げつけた、静まり返る倉庫に『ガシャン!』とぶつかるとその音に 驚いたか定かではないが外の怪物達は一瞬沈黙した その様をフッと鼻で笑うとリフトに戻り今、確認すべき事を気は引けるが行った 正直、このまま上階にある事務所に籠って何事も無かったようにコーヒーでも 飲みたかったがそうもいかない、リフト前面に恐る恐る回り込んで確認する あぁと又、膝から崩れ落ちそうになる光景だった その馬のような動物に突き刺さるリフトの爪は間違いなく胸辺りからはいり 臀部(でんぶ)から突き出ていた受けた矢も数十本突き立っている 普通即死のケースと思われたがまだ辛うじて生きていた 隆はその動物の顔を覗き込むとそれは馬というより牛に近いそんな感じで 黒黒した大きな瞳はまだキラキラ輝きを放つ、そう言えば苦痛でだろう悲鳴の ような咆哮を上げていたさっき迄とは違い今は荒い呼吸音しか聞こえない 痛いに違いないだろうが何も言わないこの動物が可哀想になり 軽く頭を撫でてやると『グルグルグルゥ』と鼻を鳴らした 『ウッウウウッ』突然、隆の頭上から声がした、生死を確認できてなかったが 『天使』は生きていた、そうだと隆は辺りを見渡し壁際に置いてある キャスター付き作業足場を持ってきてマストにひっかかる『天使』を お世辞にも丁寧とは言えない手際で足場に引っ張り上げた その透き通るような白肌には手際の悪さでグリスがべったり付き、最悪な事に まずいと思った隆はリフトにのせてあるタオルを急いで持ってくるとそのグリスを 拭った、結果は想像通りである 先程までの天使は市街地迷彩を施した特殊部隊員に変身した 大きな溜息をつく隆であったが本当に溜息をつきたいのは彼女であったろうが 今はまだ意識は戻らない、言葉が通じるかはわからなかったがその時は 素直に謝ろうと思う隆だった 彼女の頭の下に鉄製の足場は痛かろうと拭ったタオルを敷くと足場を降り リフトに刺さるこの動物をどうしたものかと思案し倉庫内を見渡した 昔、刃物が刺さった時は動脈を傷付けている場合があり抜かずに病院へ 行った方が良いと聞いた覚えがあるが、このままリフトで動物病院へ 行けたらよいが今は現実的ではない、しかもこの状態だ後1時間ともたないのは 隆でもわかる、ならば楽にしてやるのが最良だったが医者でも獣医でもましてや ハンターでもない隆に動物の絞め方など知る由もなかった ならば死が早まろうとも先ずは突き刺さる爪から解放して楽にしてやるのが 良いだろうと、そう思い隆は今一度その為の道具を倉庫内で探そうと見渡した
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