bull shit

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隆は7階へ降りると、4階倉庫へ入った、ここ事務棟に接続しているA棟倉庫は 建屋の高さこそ一緒だが、中の構造は2フロアで1階になっており事務棟から 連絡できるのは1、3、5、7階だけだった、その7階から4階倉庫へ入っていくと 倉庫内の電灯を付けた、倉庫と言えば昔から水銀灯と決まっていた、水銀灯は スイッチを入れてもすぐには付かない、薄らぼんやり明かりが灯ると数分後に 本来の明るさになる、あのもどかしさが懐かしかった しかし今どきはLED灯でスイッチを入れればすぐ点灯する消費電力も低いし 寿命も長いとなれば迷う事はないだろう、隆は水銀灯の明かりが灯るまでの 蒼白い感じでジリジリ唸るあの感じが好きだったがこの三共倉庫もLED灯であった LED灯に照らされる倉庫は2階から4階の内部は天井まで伸びる機械式のラック棚 が設置されて商品を取り出す際は端末操作で取り出す仕組みになっており各階の ほとんどはリフトが走るスペース以外はラック棚で埋め尽くされていた 隆は4階倉庫の端まで行くと非常階段へ出る扉のノブにかかるプラスチックの カバーを割り静かに扉を開いた、フワーと霧が倉庫内に入ってくる 外へ出ると振り返り静かに扉を閉めた、半階降りた踊り場で手摺から乗り出すと 下を見下ろした、しかしやはり霧が邪魔で何も確認できなかった 隆は慎重に音を立てず一歩一歩進んだ、もどかしく気だけ焦っていた、焦る 気持ちは著しく下半身に作用する『トイレに行っておくべきだった』そう思った 隆の意識は益々下半身に集中し余計にもよおしてきた しかし既に事故を起こした身と開き直ろうとしたが、今度はそれを彼女に 悟られてはいまいかと心配になってきた、どこまでもネガティブな隆は更に 深みに堕ちてゆく、テレビでは市内あちらこちらで異変が起こっている、怪物は 玄関前にいるだけではなく更に隆の前に現れて最終的には、4階の非常口は解錠 してある状態でそこから侵入されて8階にいる彼女は、階を下りる度に果てしなく 堕ちてゆくのだが今迄何も成していない成功体験のひとつも無い、そんな隆には しょうがない事でポジティブに考えようにもその選択肢が頭に浮かばないのだ しかし、そんな底無しにネガティブな隆だがそれが幸いしてか失敗も少なかった 成功もなければ失敗もない、楽しくも苦しくもない、ただ生きているだけの存在 それが良くも悪くも隆だった 足元が鉄からコンクリートに変わる、壁沿いに伝うと角からスロープ上がり口を 望んだ、このA棟とB棟の間には霧が立ち込めておらず剣は容易に発見できた まだ連中は諦めていないようで玄関の方からはガンガンとシャッターを叩く音が 響く、A棟壁沿いを進み1.5m程の段差を静かに飛び降りると腰をかがめて剣に 近付きそれを拾った、生まれて初めて手にした剣は思ったより軽かった 女性用に鍛えられたからかは比べるものがなく知りえなかったが柄頭に 埋め込まれた宝石と鍔の装飾は容易に女性用を想像させた しばらくその場で剣を眺めていた、すると突如、隆の目の前で物音がした 身体が固まる、スローモーションの様にスロープ手摺壁の向こうから小さい怪物が 顔をのぞかせた、大きなトカゲとの戦闘でその場所で気を失い運が悪い事に隆が 現れたこの瞬間に覚醒したのだ、さっきカメラではと隆は思ったが今更だった ここに真の死角があったのだと考える余裕もなく時が止まったかのように お互いに身体が固まる、あのヤバい連中なら瞬間、隆の首は飛んでいただろう こちらの種族で幸いだったがこいつはボーガンという飛び道具を持っている お互い硬化時間が終わり動き出す、予想通りボーガンが傍らから現れた しかし隆はそいつより一瞬早く剣を振り下ろした、剣術など習った経験はなかった それ故に剣はそいつの頭に振り下ろされたのだが刀の部分でなく側面で頭を 思いっきり打ち付けただけであった、それでも小さな怪物はその場に崩れ落ちた 隆は慌てて非常階段へ戻る、信じられないくらいの跳躍力で1.5mの段差に飛び登る 裏手に周り非常階段へ一歩踏み出した時、そいつは仲間を呼ぶ雄叫びだろうか ギーともギャーとも言えない雄叫びを上げると、それに応えるような雄叫びが 遠くから上がり同時に足音と矢音が聞こえた 隆は振り返らず階段を駆け上がる、2階に届いた時1階から階段を駆け上がる音が 聞こえてきた、3階へ上がる途中で足音は更に増えた、来た、あの連中だ、恐怖が 込み上げ心臓は破裂しそうだ、4階へ上がる最後の踊り場ですぐ下にヤツらを感じ 4階の扉を開いた時、視界の端にはヤツらが見えたような気がした 扉を閉め慌てて施錠すると、ガンッと扉が音を立てた驚いた隆は腰を抜かすように 後ろに転んだ、吐きそうな気分と激しく荒い呼吸で気を失いそうだった、 隆はその場で大の字に寝転がると呼吸を整えた、ガンガンガンッと扉は叩かれ 続けていたが防火扉を打破れる筈もない、暫くその場で天井を仰いでいた 落ち着いた隆は足の元にある扉を蹴り返すと立ち上がり8階へ戻って行った
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