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『佐藤 隆』
3年間、毎日ここを通っているが1度としてこの信号を青で通過したことがない
バイク通勤というものは日にちを重ねる毎に徐々に赤信号で停る場所が
固定されてくる、自宅アパートのある今里からだと他の信号でも勿論捕まるのだが
各々、稀に青で通過する事がある、しかしこの『難波』交差点のひとつ東側の
信号、具体的に名前はついてないが『戎橋商店街』の千日前通りを横断する
歩道のこの信号は未だかつて青で通過した事がない
少々愚痴になるのだが私は今から仕事に向かっている、眼下に視線を落とせば
そこには小汚い作業服、その視線をあげれば目の前に広がる世界たるや
私の勤務帯は夕方から深夜にかけてだが週末ともなればこの信号には
心を挫くには十分な物が揃っていた
よりによってな信号、この3年間毎日毎日自分とは違う世界を眺めてきた
そしてこれからもそれを眺めていくだろう、そして諦め年老いていき
これといって何もなく平々凡々といえば上出来な人生を送るのだろう
30代前半で何を寂しい事をと思われるかもしれないが同僚の先輩を見ていれば
おおよそ予想がつく、特に何を成すでもなくただ毎日を何となく過ごし
休憩時間にはバカ話で盛り上がり家に帰れば携帯をいじるか、テレビを眺める
そして眠りにつき目覚めるとリセットされたかのように同じ様な今日を過ごす
何より問題なのがこの生活に疑問を持たない事だ、さらに問題なのはそれが
わかっているにも関わらず何もしない事だった
しかし何が出来るというのだ、学歴もなく秀でる才能もない非正規雇用の
モブキャラの私に・・・
そう思いを巡らせながら右手に京セラドームを眺めつつ左折する
そして今日も昨日と同じ今日を過ごす何も疑問を持たずに
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