bull shit

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厨房と言っても凝ったものを作れる程の設備は備えられてはいなかった、軽食や 麺類、簡単な定食や丼物、カフェテリアとは言うが要は社員食堂だった 隆はレジ横から厨房へ入っていくと、先ず冷蔵庫へ向かい中を覗くと 粗方使えそうな物を物色すると次は冷凍庫を覗いたが途中で止めた、隆は こう見えて炊事洗濯、家事全般全てこなせる器用さを兼ね備えていた、冷凍食品は 基本、揚げの作業になるのだがこの厨房で揚げの作業を行なうにはフライヤーの 電源を入れ油温が適温になるのを待たなければならない、それが終わればある程度 温度が下がるまで目は離せない、隆はササッと手早く作れる物を考えていた とりあえず湯を沸かす、そして冷蔵庫へ戻るとプラスチック容器に入った タラコペーストとバターを取り出した、包丁を引き出しから抜き取ると軽く湯に つけ手早くバターを適量切り分けボウルに放り込んだ、湯が沸くと塩をつまみ 鍋に入れ棚にあったパスタを回し入れる、パスタが茹で上がるまで15分程度 隆はボウルにお湯を入れ台所用洗剤とタオルを持って彼女の元へ帰ると顔を 拭いてやった、体についた工業系の油汚れは台所用洗剤が一番効果的だった みるみる彼女の特殊部隊メイクは落ちてゆくと本来の時を止める程の美しい顔が 戻ってきた、彼女は何が起こってるのかわからずオレンジジュースを飲む邪魔を するなよと時々顔を背けたりしたが、これで謝る必要もなくなった 隆は厨房へ戻ると遠目からもカフェテリアの彼女を眺めた オレンジジュースが流石に少なくなってきたのか彼女は少し悲しげに見えた、 歳は20代前半といったとこかしかしその仕草は小学生だった、あの美しさに あの仕草、隆は自分でも気持ち悪いとわかる程ニヤニヤしていた 調理に戻りペーストをバターの入るボウルへ入れるとスプーンで混ぜ、マヨネーズを 少量とレモン汁、黒胡椒をいれさらに混ぜ合わせた、アラームがなりパスタの 出来上がりを知らせると慌ててパスタ皿を2枚だし先程のタラコペーストをその皿に スプーンで塗ると茹で上がったパスタを入れスプーンとフォークでペーストと パスタを絡める、厨房の中にはタラコとバターの絡み合う香りが漂よい隆は 上の棚を覗き奥に手を突っ込むと刻み海苔の入る袋を取りだし、ひと握りパスタの 上へ振った 隆はボウルと鍋を手早く洗い終えるとタラコスパの盛られたパスタ皿2枚を両手で 持つと彼女の元へ届けた 彼女は空になったカップに残る氷を指で突っついていた、今すぐ抱きつくたく なる程にその仕草は可愛かった、あざといと言えばあざとい仕草であったが 多分彼女のは素だろう、なぜなら興味のない人にあざとい姿を魅せる必要は ないよなと隆は考えた相変わらずのネガティブシンキングだがタラコスパを テーブルに置くと自販機にゆきオレンジジュースを買った、流石に飲ませ すぎかと思ったが隆はその喜ぶ顔をただ見たかった、氷に集中する彼女の 傍らからオレンジジュースを差し出すと、餌を貰う子犬のように目を 輝かせて隆を見つめてきた、また抱きつきたくなる隆は もしかするとこの子は悪魔ではないかと時折、頭の片隅で考えた 彼女の正面に座るとタラコスパを彼女の前に差し出した、オレンジジュースに 集中している彼女だったがその匂いに気付くと視線を落とし確認する、 首をかしげ隆を見た、すかさず隆はタラコスパをフォークで口に運んだ それを見た彼女は自分の前にある同じ形をしたフォークをつまみ上げ、鋭く尖った 先端を眺めた、すると『コレは刺して使うのか?』という感じのジェスチャーを してきたので頷いた、どうもこの『頷く』という行為が同意を表すものと言うのは 通じるようだった、彼女は質問の答え通りタラコスパを刺した、隆は思わず 吹き出してしまった 隆は改めてフォークでのパスタの食べ方を教授した、そう難しい行為ではなく 彼女はすぐにマスターすると上手くパスタをすくい上げ、初物に対しての ルーティンであるかのように匂いを嗅いだ、少々タラコとバターの絡む匂いは キツかったのか眉をひそめてみせ隆を見つめ『大丈夫なのか?』的な表情を 見せるので隆はなんの問題もない感じでもう一口食べて見せた 彼女は少し考えると他人の施しに対する騎士道か意を決してそれを口に運んだ、 みるみるうちに彼女の表情はとろけていった、オレンジジュースの比では なかった、すると急に立ち上がり前に乗り出すと隆の両肩を掴んだ 隆は一瞬、あの表情とは真逆に怒り出したのかと思ったがそれは違った 「●&?#♪×△¥●&?#!」 パスタ皿を指さし激しく何か言っているがわかるわけもなかったが 「コレは何だ?」 と言ってるのだろうと想像すると 「ぱ・す・た」 一文字一文字、ゆっくり刻みながら彼女にダメ元で教えてみた 彼女は落ち着きを取り戻し席に着くと、もう一口、口に運んだ、すると ゆっくり口を開き 「ぁぱ・ぅす・ぁた」 隆は固まる、それと言うのも初めて何となくではあるが言葉が聞き取れた 「ぁぱ・ぅす・ぁた」 彼女がもう一度言うと、隆は笑顔で頷くと嬉しくなったのか自分を指さし 「た・か・し」 自分の名前を教えてみた 「ぁた・ぁか・ぃし」 彼女は隆を指さしそう言うと、今度は自分を指さし 「ぅぬ・ん・あ」 隆はもう一度と人差し指を立てるが、通じる訳もなくしばらく考えると 彼女を指さし、その指を自分に向けると 「ぅぬ・ん・あ」 「ぬ・ん・あ?」 彼女は頷いた、頷く彼女を見てある仮定が浮かぶ、何か彼女が話す言葉は どこか逆再生を聞いてる感じがしたのだ、確かに発音で母音が先にきてる 気がするし『ぬんあ』も逆なら『あんぬ』聞いた事ある名前だった しかし、コレは単語においては有効だが会話となれば原形の言語が わからなければ逆再生もできない、上がる心はすぐに下がったが凄い進歩に 変わりはなかった
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