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しかしこの状況、4階に行くどころかその前に終わりだった
隆は意を決して立ち上がるとカフェテリアを見た、すると2人だった敵は
3人になっていた、しかし遅れて現れただろう敵はあのトカゲにやられたのか
手負いだった、彼女に目をやるとあの階段室の彼女は?オレンジジュースを
握る彼女は?そんな感じを抱く程に彼女は別人だった、階段室で想像した
異世界の騎士、程ではないが剣捌きは舞踏のように舞い、跳ね、そして斬る
そして、そんな事はどうでも良い程に隆の目をくぎ付けていたのは彼女は
ほとんど敵を見ていなかった、目をつぶっている訳ではないがまるでそこに
敵が存在していない、そんな感じの立ち回りだった
しかし格闘技でもそうだがウエイトの差は歴然でそれは徐々に戦闘に表れだした
敵は彼女とは正反対に力任せに剣を打ち下ろすだけ、動きもそうだった
テーブルがあろうが椅子があろうが関係なく彼女を追い詰めてゆく
しかも2人がかりで、最初は相手の剣の軌跡を華麗にかわしていたが時間が
経つにつれ彼女はそれを剣で受け、その度に美しい表情は苦痛に満ちていた
隆はどうにかして彼女を救い、連れて4階に行く方法を考え厨房を見渡した
そうだと、さっきの調理では諦めたフライヤーに向かうと点火した
しかし戦闘には参加してなかった手負いの怪物が隆に気付いた、隆はそれに
気付いていなかったが彼女はそれに気付き腰の短刀を投げつけると
鎧の肩口からもぎ取れた右腕があったであろうその付け根に刺さった、軽く
苦痛に声を上げたがその短刀を抜き取ると自らの武器にして隆に向かって
いった、彼女は厨房に向かおうとしたが2人が行く手を阻む
「●&?#♪×△¥●&?#!」
彼女の叫びに隆は何があったのだとカフェテリアを見ると、カウンターの
向こう側に手負いの怪物が迫ってるのに気付いた、慌てて隆は距離をとる
しかし8階の角にある厨房に既に奥がなく逃げ場がなかった、隆の手に
非常扉のノブがあたる、このまま外に出れば4階へは行けないが自分は
助かるかもしれない、彼女は・・・彼女は騎士だ戦いで敗北し命を失うのは
覚悟してるはず、自分はただの労働者だ名誉ある死などはない、逃げ出し
ても蔑まれる事などはない、だったら彼女には悪いがここは逃げるに・・・
何をしている自分、何を迷う自分、何か彼女に期待してるのか言葉も
通じないのだ何も無いぞ、ありもしない妄想に囚われ自分に振り回される
事がある、しかしいつもその妄想に辿り着くことなどなかった、だったら
ーーーーあ゛っーーーーー!!!!ーーー
隆は走り出すとミルクパンを掴みフライヤーの油をすくうと手負いの怪物に
ぶちまけた、まだ時間は経ってなかったがゆうに100℃は超えていた
「グァーーーーーーッ!」
怪物の顔から無くした右腕の傷口に油がかかる、怪物は残った左腕で握る
短刀を捨て顔を押さえ悶える、こぼれた油は足元にも広がりそれに足を
取られ後頭部から倒れた、隆は追い討つようにバーナーを手に取ると
怪物の顔めがけて最大火力を浴びせた、簡単に着火すると頭部は燃え上がり
タンパク質の燃える嫌な匂いが立ち込める、怪物はもんどりうってもがき
燃える炎は怪物の呼吸も奪うと徐々に静かになって事切れた
しかしそれとは反対に隆のアドレナリンはチューチューと音を立てるほど
分泌され厨房に戻ると今度は20cm鍋で油をすくった、フライヤーの
温度表示は150と表示されていた、片手では上がらず両手で持つと彼女の
傍らに進み出た、2人の怪物は仲間が焼かれてゆく様を呆然と見ていた
剣と剣で鎬を削り争い生きてきた怪物達に仲間のその死に様は余りに無惨
だった、そして目の前にいるこの剣も持たぬ男が余りに残酷に思えていた
その我々の抱く怪物の内面とは真逆に感傷に浸っているそこに油の雨が
降り注ぐ、1人はとっさに腕で防いだが相手は液体だその腕を掻い潜り
攻め込んでくるとブレスプレート、ガントレットそのあらゆる隙間から
侵入すると中の皮膚を焼いた、もう1人はもろに頭部に浴びた兜を
被っていたがバイザーに空いた穴から油は侵入すると目を焼いた
その場でうずくまり兜を脱ぎ、油で濡れたガントレットで目を擦る
火に油だった、空になった鍋を怪物へぶつけると、隆は呆然と
立ち尽くす彼女の手を引くとエレベーターへ向かった
比較的、軽傷な1人が後を追おうとするも足元の油で足を滑らせテーブルを
破壊しつつ頭を打ち倒れた
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