bull shit

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詰所まで約200m程、詰所辺りはモヤと白煙でよく見えなかった 100m辺りで不鮮明な世界に川向うの倉庫のライトで縁取られた何かが浮かぶ 50m、そのシルエットが鮮明になる、高さ3m程の何かが2つ それと不気味な地響きと金属同士がぶつかる様な甲高い音が聞こえてきた そしてそれは突然起こった、リフトが20m程まで近付いた時濃い白煙の中から 黒い塊が隆の眼前に飛び出してきた と同時にリフトが激しく揺れ隆はその衝撃でリフト前面の金網に打ち付けられた ハンドルで腹部を打ち頭頂まで届く様な痛みが走り隆はシートにうずくまる しばらく腹をおさえていたが何か生暖かく生臭い液体を感じ手で顔を拭うと 腹部の痛みどころではなくなった、その手は血にまみれていたのだ 隆は慌てて頭をさすってみたが頭部には特に外傷はなかった、 何なんだと、うろたえていると苦痛に満ちた咆哮が目の前から聞きえた 血で霞んだ目を擦ってリフト全面を見てみるとそこには、馬?多分、馬だろう 隆の脳がそう判断した動物がリフトの爪に胸部辺りを貫かれていた 慌てて身を乗り出し、もう一度霞む目を擦り確認しようすると 今度は顔に何かが触れた、恐る恐るそれを掴み確認しようとすると 事故物件よろしく髪の毛がリフト上部から垂れ下がっていたのだ ギョッとして全身から血の気が引いていくのを感じとれた、隆はその髪の毛を 掴んだまま視線を上部にあげていくとそこには・・・ ちょうどリフトのマストに角度をつける2本の油圧シリンダーの間に 上手い具合に女性が横たわっていた、隆は映画のように声を上げたかったが そこにいる女性はよく聞く白い服を着て恨めしそうな目でこちらを見つめる者 ではなく、甲冑であろうかそれを着込み兜は何かの拍子に取れたか 最初から被ってないかは定かではないが、そこから伺える女性の顔面偏差値は 最高学府の理系を余裕で狙える、目が覚める程で声を上げるどころか 見惚れてしまった 人は度を超える美しいものを見ると時が止まるのであろう、いつしか脳内では ベートーヴェンの『スプリング』が流れ始めていた 隆はもしかしたら自分は何かの拍子に、そう先程の衝撃の時、既に自分は 彼岸の彼方に旅立ち、こうして今、目の前に天使を見ているのだろうか? それもいいか、別に大した人生でもなかったし、この先も大した事はないだろう そこまで卑屈に考えたが、ここは現実世界でいつもの薄汚れたリフトの上だったと 思わせてくれたのは大気を切り裂く矢音だった、それも1、2本ではない優に 10数本は飛んできた 爪に突き刺さる馬のような動物が邪魔で前方の視界は遮られていたが 迫り来るような足音が本能に危険を知らせていた
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