143人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話
Any song is ours、どんな歌も俺達のもの。
彼等に、彼の声に出逢った時、僕の運命は動いた。
(ヤバッもう動画がアップされてる!)
カラオケボックスのバイトの休憩中、急いでスマホをチェックした。
SNSの告知で、21時にAsioの新曲動画が配信されると知って、バイト中ずっとそわそわしていた。リアタイで観たいから、今日はその時間に間に合うように休憩を取るつもりだったのに、酔っぱらったお客さんに会計金額が違うとかで捕まってしまった。
(家に帰ったらちゃんと落ち着いて聴こう)
休憩時間はいつもは大体何か食べてるけど、今日はそれどころじゃない。しばらくメンバーのソロ活動が続いてて、Asioとして新曲を出すのは1年ぶりなんだから。
(なにこれめちゃくちゃいい!)
新曲、Reach my dream。作曲はリードボーカルの歌維人、作詞はコーラスの響也だ。
動画では1番だけしか流れなかったけど、それだけでも鳥肌が立った。
歌維人の得意な疾走感あるメロディは気持ちを昂らせてくれるし、相変わらず4人の息の合ったハーモニーは美しくカッコいい。そして何より響也の書く詞は、いつも僕を勇気づけてくれる。夢に手が届くんだと信じさせてくれる。さりげない力強さが僕を応援してくれる。
動画だけでなくサブスクでも視聴再生回数を伸ばしてる人気の4人組ボーカルグループ、Asio。彼等の売りは、4人が4人ともハイスペックなルックスに加えて、コーラスワークが凄いこと。
音大のコーラスサークルで出会った先輩後輩の間柄の仲の良さで、ざっくばらんな下ネタトークを繰り広げたかと思うといきなり4音でハモり出す〝歌ってみた動画〟は、そのギャップがカッコいいと視聴者から大受けだ。
もちろん僕もその動画を楽しみにしてるけど、Asioの本当の魅力はそれだけじゃ語れない。
僕は3年前のデビュー当時からずっと追いかけてる。それこそ1日の動画再生数が100回いかない時から。その頃のAsioは楽器演奏も動画編集も全部自分達でやっていた。音の数も少ないし動画もブレブレだったけど、その映像の向こうから押し寄せてくる声の渦に、僕は一瞬で心を鷲掴みにされた。
中でも、中音域を担当する響也の声が大好きだ。メインでも高音でも低音でもないけど、彼の声ならどんなに小さくても聴き分けられる自信がある。
響也の、誰をも押し退けず、それでいて誰よりも意志の強いその声は、夢を諦めかけていた僕の背中を押してくれた。
今でも時々めげそうになる気持ちを奮い立たせてくれるのは、Asioが、響也が、いてくれるから。
(よしっ、あと3時間頑張ろう)
連日のバイト掛け持ちも、この動画のおかげで乗り切れそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!