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3 魔法使いは相談する
ドゥーと名乗る青年が帰った後もドキドキは止まらない。
これでは魔法薬をちゃんと
作れそうにない。
「……うぅ~~~」
これじゃあどうしようもないということでお店は暫く閉めることにした。
どうせもう少ししたら魔法薬の材料の採取をしようと休業の計画はしていたのだ。
前倒ししてもそこまで困らない。
今までに全くこれっぽっちも経験がない出来事にウンウン唸って頭を抱える。
結局、自分一人では解決出来そうもないなぁと判断して、
親友のキリエに水晶を使って
連絡をしてみることにした。
「ちょっとした悩みがあって、どうしても相談したいの」
そう言ったら、流星かと見間違う速さで空を飛んできてくれた。水晶越しに相談するつもりだったけど、キリエは凄く心配してくれたらしい。
あたふたしているうちに魔法でお茶会を開催。
一息ついてリラックスの中で話をすることとなった。
用意された紅茶とクッキーは、家事妖精のブラウニーに
あげれば張り切って仕事をしてくれそうなぐらいに美味しくて気分が落ち着いていく。
「────それで、何でその時に断らなかったのかしら」
「そ、それは幾らなんでも失礼じゃないかな?」
多少迷惑だったが、思いを
伝えたいあまりに気持ちが先行し過ぎてしまっただけのようにみえた。
「いきなり店に来て告白する
殿方が一番失礼でしてよ。
それにお客様がいようがいまいが営業妨害をするとは
言語道断。そんな狼藉者
とっとと追い払うべきですわ」
「う~、でもでも! 悪い人じゃなさそうだったし。今まで会ったこともない人だけど、
本気で好きだって言ってくれているのに門前払いするのは酷くないかな。断るなら断るで、ちゃんと考えを纏めてから返事をしたほうが────」
「甘いっ!甘い甘い甘~~~い!!ジョマのその考えは砂糖菓子より甘いですわよっ!!」
「ええぇっ──! 何で──!?」
疑問顔のわたしに鋭い眼光と指先を向けてキリエは言う。
「いいこと? 返事の保留というのは相手に脈ありと勘違いされてしまうものですの。
『断られていないということは自分に気があるんだ』とか、おかしな風に自分の中で自己肯定されましてよ」
「そ、そう……なのかな……?」
「そうですわっ! 私はそうして好きでもない輩に嫌になるぐらい付き纏われたことがあるんですから!! それに────」
キリエは過去にとっても嫌なことがあったのを思いだしたようで、憤慨して愚痴を次々とこぼし続けていく。
キリエの苦労話につい気になることを尋ねる言葉が喉から出そうになったが、話を遮るのは失礼と思ってクッキーと一緒に噛み砕き、お茶と一緒に飲み込んでしまった。
嫌な気分は一気に吐き出してしまった方がスッキリしてしまうのだから。
「……ハッ!?これは大変失礼。話が大分脱線してしまいましたわ。え~、コホンッ。
つまり私が伝えたいのは肯定でも否定でも誤魔化さずキッパリハッキリ言ってしまいなさいということよ。それが出来ないならば実は彼氏がいると偽るかジョマ自慢の魔法薬でなんとかするなりしなさいな」
溜まっていた鬱憤は一先ず
言い終えたらしい。
紅茶を一口飲んで喉を潤すととんでもないことを言われてしまった。
「う、嘘も魔法薬の悪用も駄目だよ!?」
魔法も魔法薬も犯罪行為及び他者への悪用は禁忌とされており、掟を破ろうものなら死ぬより恐ろしい罰を受ける。
わたしは法の目を掻い潜れるほど狡猾でも、知らない誰かを泣かせて平気でいられるような性分でも無いから、無縁な話ではあるのだけど。
初めて耳にした時は悪い人はどんな酷い目にあわされるのかと震えが止まらなかった。
「偽彼氏も魔法薬も冗談ですわ。まあ、それは置いといてちゃんと言うべきということよ。付き合うか付き合わないかを」
「う、うん……」
「なんとも頼りない返事ですわねぇ。そういえば次はいつ頃会うと言いましたの?」
「気持ちを落ち着かせたいのとお店のことも考えて、わたしから一週間後って言っておいた」
「うんうん、自分から言ったのは良いですわ。相手のペースに流されるままでいるというのは愚の骨頂。でかしたじゃな──」
「んだけど、どうしても明日じゃないと都合が悪いって頼まれちゃったから結局は明日になっちゃった。あはは……」
「……根負けしてどうしますのよ」
ヤレヤレ仕方ないわねと言わんばかりにジト目で睨まれてしまった。
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