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エピローグ
もし、再び弟と出逢えたら朔太郎は何を話すだろうと考えることがある。
離れ離れだった間のこと?
あの日、無くしてしまった何か?
図書館へと続く道すがら、朔太郎は幼い弟の声が聞こえたような気がして、ふと立ち止まる。
きっと遠く広場で遊ぶ子供の声だろう。辺りには誰もいないと分かっていた。
その筈なのに。
何故か振り返らずには、いられなかった。
まるで見えない手で引かれたように、身体の向きを変えた。
その朔太郎の目に映ったもの。
どこか懐かしさを呼び覚ます、間もなく青年になるであろう年頃の少年の姿。
その肩に手を置く男性が、その子に向かって何かを囁くのを耳にする。
その瞬間を、朔太郎は長い間ずっと待ち侘びていたような気がした。聞きたかった名前を、聞いたような気がしたのだ。
……懐かしい、弟の名前を。
《了》
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