第3章 Case 2

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ミイラ取りがミイラになった訳 ②  赤紫色の空の下、男は廃墟となった街並みに、時折昔の姿を見かけた。  かつては、子ども達が歓声を上げながら走り回っていただろう公園。  その公園に蔓延(はびこ)る灰色の植物。  斜めに傾ぐブランコ。  色あせた複合遊具に絡まる有刺鉄線に似た灰色の蔦。そこには男が今まで見たこともない毒々しい色の実が生っている。  それを貪り食べるねずみに似た何か。  しばらく歩みを進めると、斜めに傾ぐ看板のある建物が並ぶ。  商店街だろうか?  男は立ち止まり、そこにあるものを眺める。  看板は錆に浸食され穴が空き、茶色く歪んでいるため文字を読み取るのがやっとだ。  長田写真館  家族写真のようだ。展示されているガラスの中にも、植物は根を張り灰色の世界を作り出している。  写真はみな、色が飛んでしまい人の輪郭が僅かに判るくらいだった。  いずれかの時点まで、この『世界』にも人の生活はあったのだ。  何故、終わりが訪れたのだろう。  耳が痛くなる程の音のない世界。  男は自らの足音さえも、吸い込まれていくようだと思う。  ……どれだけ歩いただろう。  人の姿は見当たらなかった。  男は、探し人がこの『世界』には居ないことを認めるしかなかった。
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