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ミイラ取りがミイラになった訳 ③
男はあまりの突然の眩しさに目を細めた。久しぶりの太陽の光が黄色く、目に染みる。『入り口』から出てみれば、そこは男のよく知る喧騒があった。
男の足が蹈鞴を踏む。
転びそうになり、膝に手をついた。
突然現れた男に気づいた素振りもなく、足早に通り過ぎる人々。行き交う車のアスファルトとの摩擦音。空気に混じる地面や食べ物の臭いに、人々の体臭が渾然一体となった馴染みある『世界』。
元いた場所に還って来たのか。
あるいはまた別の『並行世界』なのか。
男にはもう、分からなかった。
そして分からなくても良かった。
探している人に再び会えるのなら、そこがどんな『世界』だろうと構わなかった。
久しぶりの青空を見上げる。
この空の下の何処かに男の探す人が居ることを信じ、男は歩き始めた。
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